AI×がん治療
分野の垣根を越えて新たな治療の可能性を探るプロジェクト―がんを克服し、世界中の患者に希望を
楽天技術研究所(RIT) × 楽天メディカル
がんは、世界中で患者数が増加傾向にあり、主要な死因の一つとなっている(注)。そのため、がんの克服は、社会にとって最も緊急かつ困難な課題の1つだと言えよう。楽天の創業者兼CEOである三木谷浩史は父親をがんで亡くしている。三木谷が父親のがんの治療法を探し求めていた時に出会ったのが、光免疫療法だ。三木谷が開発を支援するために出資した企業が、後に楽天メディカルとなった。楽天メディカルは、現在、楽天のグループ会社の一員として、アルミノックス™プラットフォームという独自の技術基盤をもとにした画期的ながん治療法「アルミノックス治療」(光免疫療法)の研究開発に取り組んでいる。
2020年、楽天メディカルの研究開発チームと、楽天のグローバル研究開発機関である楽天技術研究所(Rakuten Institute of Technology:RIT)の専門チームは、AIを活用した臨床試験データの分析に関する共同研究プロジェクトを開始した。この共同研究プロジェクトでは、楽天メディカルの臨床試験によって得られた患者データ(匿名加工済み)をもとにAIベースの新たな解析手法を開発することに重点を置き、特に光免疫療法の治療結果に関連する可能性のあるバイオマーカーを割り出すことを主な目標としている。この共同研究は国境を越えて行われており、インド、日本、アメリカのチームが参加している。RITのチームメンバー3名にこのプロジェクトについて話を聞いた。
MEMBER
事業メンバー
AIの分析力を医療に応用
光免疫療法は、薬剤と光を組み合わせた、画期的ながん治療法である。薬剤は、光に反応する色素「IRDye®700DX」(IR700)と 特定の細胞に選択的に集積する物質との複合体である。690nmの光を照射することでこの薬剤が活性化し、がんを選択的に死滅させる。楽天メディカルが開発した最初の薬剤「ASP-1929」(抗EGFR抗体であるセツキシマブとIR700との複合体)を用いた光免疫療法は、日本では既に再発頭頸部がんに対して保険診療として実用化されており、米国、インド、台湾などで最終段階の国際共同治験が進行中である。RITと楽天メディカルとの共同プロジェクトでは、楽天メディカルの臨床試験から得られたデータの解析に、AIを活用することを目指している。
Shantanuは次のように述べている。
RITは、このプロジェクトで臨床試験から得られたデータ解析を支援しており、デジタル病理学とゲノミクスという2つの領域に焦点を当てています。光免疫療法は、薬剤と光照射の組み合わせでがんを治療する可能性のある実に素晴らしい技術であり、私たちはこのプロジェクトに貢献できることをとても嬉しく思っています
Shantanu
Devrajは次のように付け加える。
私たちは早い段階から、AI解析は説明可能であるべきだと考えていました。データを入力すれば、まるで魔法のように結果が現れるブラックボックスのようなものでは役に立ちません。医療分野では高度な精査と説明責任が求められるためです
Devraj
時差と分野の違いによって生じる課題
RITチームが直面した主な課題のひとつが、がん治療の生物学的側面を理解すると同時に、医療分野の難しい専門用語や微妙なニュアンスに慣れることだった。RITチームの専門分野はコンピューター・ビジョン、機械学習、ディープ・ラーニングなどだが、彼らは楽天メディカルの研究者たちと連携することによって非常に有意義な学習の機会を得ることとなった。
Shantanuは次のように述べている。
最新の動向に対応し、生物学とAIの橋渡しをするためには、私たち自身が高いレベルで適応力を発揮する必要がありました。それを成し得たことを誇りに思っています
Shantanu
これにShreyaは同意し、こう述べている。
両チームの専門分野が異なることから、互いのコミュニケーション方法も異なることに気付きました。そのため、まずは専門用語を理解し、研究者たちと共通言語で話をすることから始めました
Shreya
こうした課題を克服するため、RITチームは医学文献の読み込みに力を注いだ。また、楽天メディカルのチームとオープンにコミュニケーションをとるようにした。実際、RITと楽天メディカルのチーム間で密に連携することができ、多くのインプットを得られたことが成功に至るもう1つの重要な要素となった。光免疫療法、画像診断、ゲノミクスに関するさまざまな事柄について話し合うと、両チームのオンラインミーティングが何時間も続くことは珍しくなかった。インド、日本、カリフォルニア間の時差はあったものの、このオンラインでの共同作業によってチームは地理的な距離を乗り越え、タイムリーで生産的な議論ができた。
もう1つの課題は、デジタル病理学とがんゲノミクスの基本的な知識と技術を理解することだった。デジタル病理学では、AIによる画像処理によって、がん細胞における薬剤の取り込み率を割り出し、光免疫療法の治療に関連する腫瘍微小環境内の画像データの特徴を見つけることができる。がんゲノミクスでは、AIを使って、治療効果の予測に役立つ生物学的データの特徴を特定できる。チームが高度な知識と技術を理解することにより、デジタル病理学とゲノミクス解析の双方で、エンド・ツー・エンドのAIベースの解析手法が開発されるという成果に繋がった。
RITと楽天メディカルの連携は、分野を超えたコラボレーション、強い決意、イノベーションの持つ力を体現している。このチームは、AIの専門知識と医学研究をシームレスに統合することで、様々な課題を克服するだけでなく、世界中の患者に希望の光を届けるという目標に向け大きく前進したのである。
(注)Sung H, Ferlay J, Siegel RL, Laversanne M, Soerjomataram I, Jemal A, Bray F. Global cancer statistics 2020: GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 36 cancers in 185 countries. CA Cancer J Clin. 2021: 71: 209-249.
https://doi.org/10.3322/caac.21660
※所属表記・記事の内容は、取材当時の内容に基づきます。
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