児童養護施設を「知る」

東京家庭学校を訪問しました

児童養護施設支援

子どもたちを自立へ導くことの難しさ

2016年6月、東京高井戸にある児童養護施設「東京家庭学校」に訪問しました。
近年、児童養護施設は、できる限り小規模で家庭的な養育環境の形態に変えていく方向にあります。

東京家庭学校では、2000年に施設を改装し、小舎制をさらに小さな生活単位として、グループホームと同じ完全自炊の寮舎単位(子ども6人)での生活に変わり、施設の形態がより家庭的な環境になりました。
現在施設は、本舎に4寮と5ヶ所の分園(5,6人の子どもたちが生活するグループ)があり、52名の子どもたちが、杉並区、青梅市、福生市とそれぞれ分かれて生活しています。施設で生活する子どもたちの現状、施設が抱える課題を松田雄年校長から伺いました。

30 年前と今との違い

昔は、1人の職員が10人の子どもを養育する環境。部屋には扇風機もなく、夏の暑い日もうちわを扇ぐ生活でした。食事も1階の厨房施設で一括調理されたものを、エレベーターを使って運んでいました。
今、子どもたちが生活する個室は、冷暖房完備です。家庭的な環境を目指す中で、食事も厨房での一括調理ではなく、各寮舎にある台所で子どもたちの時間に合わせて職員が作るようになり、子どもたちは、出来立ての温かいご飯を食べられるようになりました。献立は、平日は栄養士さん、土日は自由献立で、各寮舎で内容が違います。業者に配達してもらっていた食材も、今は職員と子どもが一緒に買い物に行きます。

日本は物質的に豊かになっていますが、児童養護施設もそれは変わりません。児童養護施設は主に税金と寄付金等で運営されていますが、特に、東京都であれば国だけでなく東京都からの予算もあります。
子どもたちは、塾に通うことも、部活動もでき、修学旅行にも行けるし、私立の高校にも行ける。昔であれば、学校の中で、施設の子と一般家庭の子では何か違いが見えましたが、今では違いなどほとんどありません。

ただ物質的に豊かになることで、子どもたちの意識状況が、変わってきた面もあります。現在、6人の子どもたちが生活する寮には3,4人の職員がいます。職員の数が増えることで、職員が子どもにかけられる時間も増えました。
その反面、子どもたちは、いつでも面倒を見てもらえることに慣れてしまっています。以前は、お風呂掃除や、厨房で調理された食事を運んだり、片づけをしたり、子どもたちにも家事の分担がありましたが、今ではそのようなことは職員がして当たり前と感じているようです。

また職員の人数が増え、家庭的な環境に近づいたとしても、職員は親にはなれない、と私は思っています。家族であれば、誰かが病気で動けなくなれば、他の家族がそれを自然と助けます。母親が病気になれば、父親がご飯を作る。母親の看病をする。その場面を子どもたちが見ることで生きていくことの苦労を知ることができます。しかし、施設では、もし職員が働けない状況になったら、代わりの職員がやってきます。

このような状況の中では、子どもたちが生活することの大変さを知ることは難しいと感じています。児童養護施設の子どもたちは基本的には18歳で施設を退所しなければなりません。その後は自立した生活を歩まなければなりませんが、自立のためには様々な課題があります。

以前は使われていた配膳用エレベーター
園内保育室

進学か、就職か

東京家庭学校には自立訓練室があります。これは、施設を出て自立するための準備の部屋で、冷蔵庫や電子レンジ、ベッドなどの必要なものが揃っています。
東京家庭学校を退所する子どもの多くは、進学ではなく、就職をします。私は、子どもたちに進学を積極的には勧めていません。その理由は、進学は経済的な負担も大きく、卒業するには相当の努力と覚悟が必要だからです。中退や、卒業した後も借りた奨学金が返せない場合も多く、進学を目指す子には、借金はしないでお金を貯めて行きなさいと言っています。

施設に来る子どもたちは、様々な日本の問題を多く反映しています。虐待による精神的なダメージによって、子どもたちは、忍耐力や抑制力がなかったり、反対に、行動する力がなかったりします。決して能力に差があるわけではなく、めんどくさがることや、我慢できないことが多いため、勉強できる状況ではない子も多いです。

現在、就職の幅は昔に比べ格段に広がっています。どんな職業でも応募すれば、東京の場合、概ね働くことが出来ます。ただ、途中でやめてしまう子も多い。
そうならないためにも、施設にいる間にアルバイトをすることを勧めています。人間関係などで仕事が嫌になると、そういうことを乗り越えていこうとする力が身についていないため、辞めてしまうケースも多いです。アルバイトを通じて、社会の厳しさ、生真面目さ、こつこつやることの大事さ、緊張感、そして、仕事をやりきった時の達成感を経験してほしいです。

男子寮で男の子達が使うトレーニングルーム
自立訓練室

子どもたちが自立するために

子どもたちを自立させるための養育に、職員の社会性やチームワークはとても重要です。
施設職員の仕事量は、一人でやろうが、二人でやろうがそれぞれが1の仕事量で、決して二人なら2分の1になるわけではありません。職員の人数が昔に比べ1.5倍ほど増えたことで、チームワークがとても大事になってきています。

子どもの状況やお願いは、引継ぎノートや口答など様々な方法で次の担当者に伝えます。
特に、幼児は話すことが出来ないため、大事に丁寧にみなければいけません。チームでやる以上、一番困るのは子どもたちだという意識を職員が持たなければなりません。夫婦ではない者が共同生活をして、子育てをするためにチームワークを維持するということは並大抵のことではありません。

子どもたちに社会性を持たせるのは職員の力量次第ですので、社会マナーやTPOを身に付けてもらうように研修や指導をしています。児童養護施設で働くということは、究極のサービス業だという認識ですね。
一方で、子どもたちの自立の一助として、海外に連れていきたいと思っています。ニューヨークなどの最先端都市もそうですが、タイやフィリピンなど、アジアの国々も勉強になることが多いかもしれません。また究極の手段として、“無人島”に連れて行き、生活させたいと思っております。
施設がモノで満たされる環境に変わりましたが、子どもたちには、それを当たり前だと感じないで欲しい、と願うばかりです。

インタビューを終えて

児童養護施設は、子どもたちの生活の場であり、自立するための準備の場。施設の職員の方々は日々子どもたちと向き合っています。
施設の環境が整備され、物質的に豊かになったからこそ生まれる新しい課題も多いと感じました。松田校長、貴重なお話ありがとうございました。

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