2010年3月15日
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東京都青少年健全育成条例改正案に対する当社見解

  「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例案」(以下「条例案」)が東京都議会において審議されていますが、表現の自由との関係等から憂慮すべき点が散見されるところ、当社が特に懸念する点につき次のとおり見解をお知らせします。

 

 

  青少年の有害情報対策の推進に当たっての基本理念は、国が定める「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(以下「法」)」の第3条第3項に規定されています。この規定では、表現の自由への配慮を重視して、民間における自主的かつ主体的な取組みを国及び地方公共団体は尊重することとされています。

(注)法第3条第3項
「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備に関する施策の推進は、自由な表現活動の重要性及び多様な主体が世界に向け多様な表現活動を行うことができるインターネットの特性に配慮し、民間における自主的かつ主体的な取組が大きな役割を担い、国及び地方公共団体はこれを尊重することを旨として行われなければならない。」

  これを踏まえ、インターネット事業者はサイト監視や普及啓発活動等の自主的取組みを進めてきており、安心安全なインターネット環境の整備に向けて着実に活動を進めているところです。
  他方、提案されている条例案には、表現の自由との関係で以下のような憲法上の重大な懸念を有する条文が含まれており、憲法上の表現の自由の規定及び上記法第3条第3項の規定との関係で非常に問題があると考えます。

(1)東京都による事実上の「検閲」(条例案第十八条の七)

  条例案第十八条の七において、フィルタリングで閲覧を防止する情報の範囲が規定されていますが、フィルタリング対象を条例で定めること自体、都による「検閲」のおそれがあり問題です。また、法の附帯決議において、政府は、「事業者等が行う有害情報等の判断、フィルタリングの基準設定等に干渉することがないようにすること」と示されていることにも反する規定です。
  東京都議会本会議の代表質問(本年3月2日実施)における民主党・大沢昇議員の下記の質問に対する東京都青少年・治安対策本部長の下記の答弁の内容によれば、法の解釈を拡大するものではないとのことなので、フィルタリングの基準設定等に干渉するおそれがある本条項(条例案第十八条の七)自体が不要と考えます。

(注)都議会本会議での代表質問
○民主党・大沢昇議員
「(略)都は民間における取り組みを尊重する立場ですが、今回の青少年健全育成条例改正案において新たに定義される違法、有害情報に関して、懸念を表明する人たちがおります。「自己若しくは他人の尊厳を傷つけ、違法若しくは有害な行為を行い」の後につけ加えられる「犯罪若しくは被害を誘発することを容易にする情報」とは、どのような情報を想定しているのでしょうか。また、条例の運用によって広く解釈されることはないのでしょうか、都の所見を伺います。(略)」
○東京都青少年・治安対策本部長
「(略)また、いわゆる青少年インターネット環境整備法における青少年有害情報の定義、これは、インターネットを利用して公衆の閲覧に供されている情報であって青少年の健全な育成を著しく阻害するものでありますが、この解釈を拡大するものではなく、その個別具体的な判断は、法と同様、事業者の判断にゆだねられているものであります。(略)」

(2)健全な表現活動まで阻害されるおそれ(条例案第十八条の七)

  閲覧防止措置の対象となる情報が、「自己もしくは他人の尊厳を傷つけ」「犯罪もしくは被害を誘発することを容易にする」などときわめて曖昧かつ広範囲であることにより、フィルタリングすべきではない健全な運営を行っているサイト自体の提供までが制約されかねず、正当な表現活動まで阻害されてしまうおそれがあり問題です。なお、コミュニティサイトを精神的支えとしている青少年もいることは東京都青少年問題協議会も認めているところであり、このようにコミュニティサイトの恩恵を受けている青少年の利益まで過度に阻害してしまうことは避けるべきと考えます。

(3)保護者と子どもの選択権が阻害される(条例案第十八条の七の二)

  第十八条の七の二によれば、フィルタリングの解除理由を以下の2つに限定しています。

1. 保護者が閲覧履歴確認サービスを利用して子どもを適切に監督すること
2. その他の東京都規則で定める正当な理由

  そもそもフィルタリングの有無、閲覧可能サイトの選択は、親と子どもがよく話あって判断すべき家庭内の問題であるにもかかわらず、行政たる東京都が保護者の判断に介入することは不適切であり、条例で規定すべき事項ではありません。また、上記1.の閲覧履歴確認サービスの提供が一部の通信事業者のみに限られていますので、2.の内容によっては、フィルタリング解除理由が極めて限定的となるおそれがあり、東京都規則によって表現の自由や知る権利等が制限される可能性があります。仮に解除理由を東京都規則で定めるとしても、子どもと保護者の選択権が阻害されないよう制度設計することが必要不可欠です。

  本条例案は、上記のとおり憲法上の重要な問題に関わる内容を含んでいますので、事前に条例案そのものに対するパブリックコメントを求めるなど幅広く意見を求めた上で議会に提出すべきだと考えます。この条例案に対しては、関係事業者のみならず、憲法学者をはじめとする法律家、インターネット利用に関する有識者や消費者団体からも疑義が示されているところです。

  当社としては、引き続き、青少年にとって健全なインターネット利用環境を整備すべく自主的取組みを進めていくとともに、関係者等と連携しながら啓発活動等に努めてまいります。

(参考1)今回の条例案の内容
東京都が公表した条例改正案概要の報道資料

(参考2)関係者からの条例案に対する意見
東京都の青少年健全育成条例改正案に対する意見
ネットビジネスイノベーション研究コンソーシアム意見

以上

※ここに掲載されている情報は、発表日現在の情報です。最新の情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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