日本の競争力を高めるDX。成功のカギは組織全体が「変わる意識」を持つこと

デジタル技術を活用して、業務プロセスやサービスを改善し、ビジネスモデルの変革を促すDX(デジタルトランスフォーメーション)。企業の競争力を高めるために必要な要素として注目されていますが、DX化を成功させるためには今、どのような取り組みが必要なのでしょうか。

8月に開催した楽天グループ最大級の体験イベント「Rakuten Optimism 2023」では、パナソニックホールディングス株式会社 グループCIOの玉置肇氏、アクセンチュア株式会社の古嶋雅史氏を招き、楽天のCIO(チーフインフォメーションオフィサー)黒住昭仁と共に、DXにおける日本企業の課題と成功の秘訣についてトークセッションを実施しました。

本記事では、特別コンテンツ「日本企業の競争力を復活させるDXの最前線」の内容を、ダイジェスト版としてご紹介します。


DX化における日本企業の課題とは?

黒住: DXという言葉が日本で使われ始めて20年ほど経ちましたが、まだまだ欧米企業に比べると日本企業は遅れていると言わざるをえません。日本企業が抱える課題はなんだと思いますか?

古嶋: DXがうまくいかないケースにはいくつかの要素があります。一つは経営者の理解とコミットメントが不足していること。DXの重要性は理解していても「どこまで何をやったらいいのか」をしっかり考えて取り組めている経営者はなかなかいません。また、企業の競争力は、これまでやってきた事業や業務が積み重なった上に作られるので、既存の事業と折り合いをつけながら、ITによる事業変革を進めなければいけない。この点も経営者にとって悩ましいポイントです。そしてそれらを理解してDX化を推進していける人材がいないことも大きな課題です。

黒住: 様々な課題がある中で、パナソニックさんはDXにおける一つの成功事例だと言われていますが、どのように取り組みを進めてきたのでしょうか。

玉置: パナソニックはホールディングスの下に1兆円から4兆円規模の会社が7つあり、さらにその中に全部で40個くらいの事業部があって、一つ一つの売り上げが2,000~3,000億円程度、東証プライムに上場するくらいの規模の会社です。つまり組織が大きく、バラバラな状態。その状況でDXを進めるには、まずは業務プロセスを合わせて、カルチャーを変えていかなければいけません。ところが、プロセスなんて、すぐには変わらないんです。そこで、まずトランスフォーメーションプログラム(PX)を立ち上げて、経営のトップ20人で「PXの7原則」を作り、「俺たちが責任を取るからプロセスを変えようね」と、会社の約束事として発表しました。もちろんそれだけでうまく進むわけではないのですが、経営とDXがぐっと近くなり、経営課題の中にDXがあることを常に考えられるようになりました。

黒住: 企業のトップがDXにコミットする体制を作るまでが、かなり大変だったのではないかと思うんですがいかがですか?

玉置: 体制作りは本当に大変な仕事ですよね。うちの場合は、ホールディングスの社長がかなり危機感を持っていて、自分事としてDXに取り組んでいる。だからこそうまくいったのだと思います。パナソニックはグローバル市場で勝てていないし、時価総額だって上がっていない。だから変えなきゃいけないという危機感が常にあります。でも足元が重くてすぐには変えられないから、ちょっとずつやっていくしかないと思ってやっています。

パナソニックホールディングス株式会社 グループCIOの玉置肇氏


DXは経営基盤への投資である

古嶋: 組織はすぐには変われないと思いながらも、玉置さんの役割としてDX化を進めていかなければいけない。その状況で、「PX:7つの原則」を作り、それを守ることが、会社を変えることにつながると思われた背景をぜひ聞きたいです。

玉置: この7つの原則は、役員が2日間の合宿をして作りました。「プロセスを変えよう」「データを使って価値を作ろう」「人材を育成しよう」そして「経営陣は逃げないよ」と明記されています。数は7つでも8つでもよかったんです。経営陣が自分たちで一言一句を考えて、合宿の様子を中継して、70ページある議事録を社員25万人に公開しました。そうすることで経営陣自らがDXの取り組みから逃げられなくしたんです。経営者がコミットしていなかったら、誰がコミットするんだって話ですからね。

黒住: そのコミットメントには、例えば売り上げなど、数字的な指標を紐付けたりはしていないのですか?

玉置: 私たちが指標としているのはたった一つ、株価です。株価をあげることを目標に取り組みを進めています。例えばEコマースのプラットフォームを変えるような単体の施策だったらROI(Return On Investment)を出せばいいと思うけど、DXは企業変革であり、経営基盤なので、そこは企業の価値、つまりは株価を指標にしていこうと思って我々はやっています。

黒住: なるほど、わかりやすいですね。古嶋さんは普段、コンサルタントとしてROIやKPIの話をすることも多いと思いますが、玉置さんの話を聞いていかがですか?

古嶋: 非常に正しいと思いますね。「収益性をどのくらいあげればDXに掛けたお金を回収できるか」という観点だけだと、10年、20年先の企業の競争力を担保することにはできません。中長期で考えた際に、DXは経営基盤への投資として見るべきだと私も思います。

アクセンチュア株式会社の古嶋雅史氏


限られたリソースで組織のDX化を進めるには?

黒住:個別のシステムの刷新や変更の話だけでは、DXはなかなか成功しない。デジタルを使ってどのように企業自体を変えていくか、ミッションを先に定めて、それをもとに経営していくことが大事なんですよね。ただ、パナソニックさんのような大きな企業と違って、リソースが限られている一般企業はどのように取り組めばいいのでしょうか。

古嶋: 現状のままで本当にグローバルな競争に勝てるかどうかを真剣に考えて、経営者に直接「変えていきましょうよ」と物申せる組織でない限り、DX化は進まないと改めて思います。いわゆるIT部門の人たちだけが頑張るのではなく、既存の事業をやっている人たちも「このままではダメだ」という問題意識を持って、何を事業として残すか、どう変えていくかを議論する土台があるかどうかが成功の一番重要なポイントではないでしょうか。

玉置: 私が重要だと思うのは、「企業を変えていくんだ」「変わるんだ」という強い想いがあるかどうか。そして、IT的な目線を持ってビジネスモデルを組み立てていく人がいるかどうかだと思います。今は会社の外に買って使えるITサービスがたくさんある。ECは楽天さんを使えばいいし、世の中にたくさんあるSaaS(Software as a Service)をうまく活用して、モデルを作れる人がDXをけん引すればいい。必ずしもDXに特化したIT部門を持っている必要はないと思います。


一人ひとりの「変革への意識」がDX成功のカギ

黒住: 確かに、今はSaaSやクラウドサービスを組み合わせれば、システムを一から自社で作る必要はないですよね。一方で、中小の企業さんにとって、企業のあり方から議論した上で、SaaSを使いこなすのは難しい場合もあります。その結果、外部のサービスに依存してしまって、サービスの限界が企業の限界になってしまうこともありますが、その点をどのように乗り越えていけばいいのでしょうか。

古嶋: その場合、私は想いと合わせて自社を客観視することが大切だと思います。想いを大切にしながら、変えていける会社なのか、このまま続けてもいい事業なのかを客観的にしっかり考える。想いと客観的な事実の両方が合致するポイントを経営陣がしっかり議論して合意することが重要です。

黒住: 我々、楽天もショッピング事業から始まって、今では様々な事業・サービスを手がけています。企業として成長していくことはもちろん大事ですが、「日本の中小企業が世界で戦える手助けをしたい」という創業当初からの想いを一番のモチベーションにしているので、お話を聞いてすごく納得しました。では最後に、会場にいらっしゃる方々に向けてメッセージをお願いします。

古嶋: 変化し続ける重要性を全員が感じた方がいいと思います。20代、30代、40代、仮に50代の人ですら、変化しなければその人の競争力がなくなってしまう。会社を良くする方向に自分も努力しようと思い続けることが、結局は、会社全体のDXの成功につながると思います。

玉置: 古嶋さんがおっしゃったように、私も変革を常態化させることが、DXの成功の秘訣だと思っています。変革し続ければ、絶対に日本の経済は、世界で非常にいいポジションを取れると強く信じています。皆さん一緒に頑張りましょう。

楽天グループ株式会社 CIOの黒住昭仁

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