百年に1度の社会改革で何が起こるか?~楽天新春カンファレンス2021、三木谷基調講演レポート~

「楽天市場」出店店舗様にとって新年最初のビッグイベントとなる「楽天新春カンファレンス」。毎年、たくさんの店舗様にご参加いただき、楽天のビジョンや戦略を店舗様と共有させていただくとともに、店舗様同士が出会い、学び合い、つながりを深めていただけるような機会として例年実施しています。

今年はいまだ収束が見えない新型コロナウイルスの影響を受け、オンラインで開催しました。1日だけにも関わらず、約3万人もの店舗様に視聴(参加)いただくことができました。生活様式が変わり、社会のデジタル化が加速する今、楽天が「楽天市場」の出店店舗様と共に進む未来はどのようなものになるのでしょうか。

本記事では、三木谷が語った基調講演のハイライトをレポートします。

百年に1度の社会変革

基調講演の冒頭、三木谷は「本当にこの1年間、まさかこんなにコロナが長引くとは誰も予測してなかったのではないかと思います」と話し始めました。

「ワクチンが様々な国で接種されるようになったとはいえ、これからもコロナなどの様々な疫病を想定しながら世界は進んでいかなくてはいけない。このような事態にも我々は備えていかなくてはいけないと思っています。(中略)

もし、このインターネットなり、あるいはデジタルによるビデオ会議のシステムなどがない中で、この新型コロナウイルスの感染の大パンデミックが起こっていたらどうなっていたのか。世界で200万人を超えるといわれている命を亡くされた方々の数は桁が1つではなく2つ、何億人という人がこのコロナによって命を亡くされたのではないかなというふうに思います。そういう意味ではインターネットがあってよかったなというふうにも思うわけであります。これによるデジタル化の加速というのはますます進んでいくだろうと思っております」

新型コロナウイルスの世界的な流行による大きな変化を、150年前の明治維新、75年前の戦後改革に続く、“百年に1度の社会変革”と表現した三木谷。今後はあらゆるものがインターネットとつながり、社会は今まで以上の速度で大きく変わっていくと話しました。

高付加価値サービスへの転換

日本では産業構造の進化とともに、産業・消費の在り方が大きく変わってきました。

私たちがインターネットショッピングやリモートワークなどで日常的に利用しているITインフラ。現在は、主に消費者向けサービスにおいて利用されています。今後は、製造業や金融業、あるいは農業など第1次産業から第3次産業を含む、あらゆる産業において、データ・AI・IoTといったITインフラが利用されるようになると三木谷は語りました。

そして、これから来る未来に向けて日本が取るべき戦略として、高付加価値なサービス創出の必要性を次のように述べました。

「日本は、今までのような製造業だけではなくて、さらにシリコンバレー型の知的財産を大きく積み上げていく。また東京が金融都市として大きく発展をしていく。そして、またエンタメ産業そして観光産業を含め様々なサービス産業を大きくしていく必要があると思っています」

この破壊的イノベーションを大きく加速させる要素として、AI(人工知能)、5G、IoT、ブロックチェーンを挙げ、日本において今後、もっと振り切って新しいことへ挑み続けるチャレンジ精神を持つことの重要性についても強調しました。

これからの消費に何が起こるのか?

ネットショッピングでは様々なモノがオンラインで取引されています。オンラインで購入する際に付与されたポイントは街中の実店舗で利用できたり、店に入ればスマートフォンにお勧めの情報が届いたりするなど、「オンラインとオフラインの境目というものがなくなってくるでしょう」と三木谷は話し、これからのEコマースに起こる変化、デジタル消費について次のように述べました。

「昔はやはりカタログだったわけです。テレビショッピングだってカタログがあった。やはり文字情報や画像といったものがどんどんインタラクティブになって、インターネットは単純に効率がいいだけではなく、もっとリッチな情報がやり取りされるようになってきたと思います。我々が楽天を始めた時は、インターネットのスピードは14.4Kbps。それが今や5Gになると、1Gbpsです。いわゆる10Kから1ギガですから、約10万倍ネットワークのスピードは速くなっています。それくらい情報のやりとりがリッチになってきました。

つまりフォーマットはもう変わっていく。今までのようなサーチボックスにキーワードを入力し、商品の一覧が表示され、価格比較するというようなUX(顧客体験)から、動画やあるいは声によるインタラクティブなショッピングなど、あたかもリアルな店にいるような感覚でネットショッピングが実現されていくと思っています」

ユーザーとのインタラクティブコミュニケーションの例として、三木谷は中国におけるライブコマースの爆発的な成長を紹介しました。ここ数年でユーザーの数は3億にも上り、車や化粧品などがオンラインで実演販売されます。昨年11月1日から11月11日までの「独身の日」販売期間には、16億円以上の流通総額を達成したチャンネルが33個もあったそうです。

このようなコミュニケーションの可能性について、三木谷は「楽天モバイル」のコミュニケーションアプリ「Rakuten Link」をベースに、「楽天グループのサービスをどんどん展開していこうと思っています。その中のエクスペリエンス(顧客体験)というものは、よりインタラクティブに、よりAIが入り、よりリッチなコミュニケーションになります」と説明しました。

消費のデジタル化

「これからは、ショッピングがネットに乗ってきたとか、銀行サービスがネットに乗ってきたとかそういうことではなくて、あらゆるものとなるでしょう。これからはもうデジタルなしでは世の中は語れない、世の中を語れないと何もできない、世の中も動かない、と、こういう風に変わっていくと思っております」と三木谷は話します。そして、デジタル化が一層加速したときに起こることとして、消費がデジタル化すること、モバイルがあらゆる日常に浸透すること、「ゼロキャッシュ」の時代がくることを挙げました。

昨年12月、「楽天市場」の流通総額はコロナ禍にも関わらず前年同月比+50%弱の成長を記録しました。その要因のひとつとして、三木谷は「消費者の行動のトランスフォーメーションが起こった」と説明し、この傾向はまだ続くと話します。また、コロナ禍以前より、UI/UXの改善、安心・安全面の強化など、店舗様とユーザーの声を聞き、多様性と統一性を両立させながら常に改善に努め、クオリティ向上に取り組んできたことを挙げました。コロナ禍においても、成長を加速できていることについて、「楽天市場」店舗様のご努力の賜物であると三木谷は強調しました。

また、楽天グループサービスの中でも「楽天市場」とのシナジーが強い「楽天カード」は、業界においても群を抜いたプラス成長を遂げており、コロナ禍でも+20%成長を維持しています。この「楽天カード」の伸びも、「楽天市場」の流通総額の成長に大きく貢献しています。その理由について三木谷は、「(楽天カードには)デジタルユーザーが多いということ、もうひとつはネット上での使用が非常に大きいということです。いわゆるデジタル化のひとつの大きな流れなのかなというふうに思っています」と述べました。

「ワンデリバリー」構想の挑戦は続く

2017年後半、インターネットショッピングの需要が高まり、大手運送会社の業務過多や人手不足が生じました。結果的に運送料金が値上がり、“宅配クライシス”と言われた社会問題を受けて始動した楽天の「ワンデリバリー」構想。自社物流網を強化し、店舗様の成長を後押しするための挑戦は今もなお続いています。

現在、楽天が独自に運営する配送サービス「Rakuten EXPRESS」の配送対象エリアは広がり、全国の人口カバー率は63.5%にまで上昇。

物流システムを拡充させていくために、様々なパートナー企業との提携も進んでいます。昨年末には、日本郵便との戦略的提携を発表し、今後の展開について三木谷は「互いの物流プラットフォームや配送網、そしてデータなどにおいて連携し、より安価、より効率的な物流プラットフォームを店舗様、そしてコストを下げるという意味でも(「楽天市場」の)店舗以外の皆さんのためにも構築し、ますます進化させて、皆さんの負担がないようなかたちでモノを配送できるようにしてきたいと思っております」と話しました。

その一方で、「楽天市場」を利用するユーザー目線、心情的に送料が重要であることも強調しました。

「楽天市場」において3,980円(税込)以上の買い物で送料が無料となる「共通の送料無料ライン」の導入以降、多くの「楽天市場」出店店舗様に導入いただいています。(2020年12月末)現在は、85%の店舗様が導入しており、全体の流通総額に占める導入店舗の流通総額比率は約90%となっています。その成長率も、未導入店舗様と比較しても前年同期比(2020年4月~12月)で約25ポイント高いといったデータも出ています。

送料無料ラインの導入効果について三木谷は、「楽天の送料は高いよね、なんていう声はほぼ聞かなくなりました。楽天のNPS(ネットプロモ―ティングスコア)は5年間で13.9ポイント向上(注1)。これは驚異的な数値であり、結果として昨年は大きく成長し、ついに『楽天市場』の流通総額が3兆円を突破しました」と語りました。
(注1)調査:当社調べ。外部複数パネルを対象としたインターネット調査。


モバイルがあらゆる日常に浸透

まだ、ネットショッピングといえばパソコン経由が殆どで、モバイル経由で買う人がごく僅かだった15年前のカンファレンス。三木谷は、“モバイル!モバイル!モバイル!”というテーマを掲げ、「今後はモバイルが中心の社会が必ずやってくる」と、その対応への重要性を話していました。そして近年、スマートフォンなどのモバイル通信機器によるデータ通信量は爆増してきており、モバイル経由でのネットショッピングは当たり前になってきています。「楽天市場」におけるモバイル端末を経由した流通総額においては、76.5%と高い比率を占めるようになり、もう殆どがモバイル経由となりました。

5Gによりデジタル化が一層加速すれば、世の中はさらにモバイル中心になっていくと三木谷は予想します。

昨年4月8日から本格スタートした「楽天モバイル」は、昨年末に累計契約申し込み数が200万を突破。その数は現在も順調に伸びています(2021年2月8日時点で250万)。2026年に人口カバー率96%を予定していた携帯基地局建設計画も順調に進んでおり、今年の夏頃には約5年前倒しで達成できる見込みとなっています。

2023年には、人工衛星を利用し、宇宙から携帯電話に通信ネットワークを提供するサービス開始の準備も進んでおり、その壮大な計画目標について三木谷は、「いわゆるカバー率ほぼ100%というものを『楽天モバイル』は世界で初めて実現するという形になります。もう山の奥に行こうが、離れ小島に行こうが、無人島に行こうが、つながると思っていただければいいかなと思います」と話しました。

モバイル×サービス=エコシステムの超拡大

また、「楽天モバイル」は、楽天エコシステム(経済圏)におけるシナジー(相乗効果)を高めています。

今まで楽天のサービスを使ったことのない新規ユーザーが、「楽天モバイル」を契約することで、楽天グループの他のサービスを初めて利用いただくケースが増えています。また、楽天モバイル加入後の楽天市場ユーザー1人あたりの月額流通総額は44%増えたことから、今後「楽天モバイル」ユーザーの増加に伴い、「楽天市場」の流通総額が高まることも期待されます。

楽天エコシステムの拡大について三木谷は、「ID、データ、ポイントというものに加えて、モバイルというものをエコシステムのひとつの大きな中核として位置付けて、エコシステムを拡大していきます」と話し、「楽天市場」にとってもモバイル事業が重要であることを強調しました。

ゼロキャッシュ時代がやってくる?

デジタル化が一層加速していくと世の中はどうなるのか。

「キャッシュレスでなく、ゼロキャッシュになる。世の中から紙の紙幣が消える時代がくる」と三木谷は予言します。

中国やドイツ、オーストラリアでは、ブロックチェーンの国家的戦略が発表されるなど、すでに世界では紙幣デジタル化の動きが起こっています。紙幣発行や管理にはコストがかかるため、より効率的なブロックチェーン(注2)により管理される仮想通貨が一般的になるのは不可避であると三木谷は説明します。

2017年と比較すると仮想通貨の価格は約25倍にも高騰しており(注3)、仮想通貨時代の到来は避けられない、つまり「デジタルいわゆるクリプトアセット(暗号資産)の時代がもう来ると思います。それが良いとか悪いとかではなく、その時代が来てしまうと思います。こういうことを考えると、通貨が消えた世界はどうなっていくかを考えなければならないと思います」と話し、三木谷は楽天のフィンテック(金融+テクノロジー)事業にさらに注力し、シナジーを高めていく意向を示しました。

楽天グループでは多様なニーズに対応する幅広いキャッシュレスサービスを提供しています。

2019年12月には「楽天ポイント」は「楽天ウォレット」のアプリを通じて、ビットコインを含む暗号資産(仮想通貨)へ交換できるサービスも開始しました。ビットコインで当たり前に買い物をする時代がもう目の前に迫っているのかもしれません。

(注2)「ブロックチェーン」とはいくつかの取引を1つのブロックにまとめて記録し、それを鎖のようにつないでいく技術です。すべての取引が公開されることで、不正取引を防止する仕組みとなっています。なお、取引の記録には改ざんできないよう高度な暗号化技術が用いられています(楽天ウォレットHPより)。
(注3)1BTC=120,750円(2017/01/01付)、1BTC=3,010,042円(2021/01/01付)

持続可能な企業として未来へ

近年、大規模な自然災害のニュースが世界各地から聞こえるようになりました。国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)に賛同する企業が増えるなど、持続可能な社会へ取り組む意識が高まっています。

国立環境研究所の研究では、この先10年間、化石燃料の燃焼などによって発生するCO2などの温室効果ガスを削減しなければ地球温暖化が進み、温室効果を一気に加速させる大量のメタンガスを含む北半球の永久凍土の融解が起こると報告されています。

「企業にとってサステナビリティやCO2の削減は、我々にとっても皆さんにとっても他人事ではありません。やらなくてもよいことではなく、やらなければいけないことと、という段階に入っていく」と三木谷はその危機感を話しました。

楽天は2019年12月、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指す、国際的環境イニシアチブ「RE100」に加盟しました。

現在、「楽天市場」をはじめとする17の楽天サービスで100%を達成、楽天株式会社全体の再生エネルギー利用率は51.4%となっており、2025年までには100%を目指しています。自社における各種取り組みが評価され、昨年12 月には環境省よりエコ・ファースト企業に認定されました。

そして基調講演の最後、三木谷は楽天市場店舗様にも環境問題について考えていただくことを呼びかけ、共に歩む未来について次のように話し、スピーチを結びました。

「楽天というのは、24年前から皆さんと一緒にずっと作ってきたものであります。技術的な革新もいろいろあるでしょう。大きな変革がこれからも待っている、大きなチャンスであるとともに、チャンスを通じてチャレンジしなければ衰退しかありません。ですので、皆さんと一緒に楽天はこれからも果敢に頑張っていきたいと思っております。共通の送料無料ライン導入というのも、やっぱりやってみたらそれだけの効果というか大きな効果が出ています。我々も間違えることもあるとは思いますけれども、皆さんの声にしっかりと耳を傾けてこれからも精一杯頑張っていきたいと思いますので今後ともよろしくお願いいたします」

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