楽天新卒3年目デザイナーの奮闘。多様性を調和させるカギとは?

大学卒業後、「楽天デザインラボ」(以下、デザインラボ)のデザイナーとしてキャリアをスタートさせたSakiさん。入社3年目の彼女のこれまでの経験から、「国境や業態を越えたサービスの集合体をブランディングする」という、デザインラボの仕事の醍醐味を紐解きます。

英国仕込み「考えるプロセスを大切に」

デザイナーとしてのSakiさんの経歴は、日本の美術大学を経て、アート分野で知られた英国のロンドン大学ゴールドスミスカレッジへ留学したところから始まります。同校でデザインを専攻していた頃のことを次のように振り返ります。

Saki: ビジネスの場でも、よく「デザインとアートの違いは何か」という問いを耳にしますが、私もロンドン大の入試でこの質問をされました。問題解決やその設計を主眼にした“デザイン”に対して、人の美的感覚に訴えるような“アート”は自己表現だというような回答をしたのですが、笑いながら「どっちも同じだ」と返されたのは今でも覚えています。実際に入学してみると、アート寄りのプロジェクトがあったり、グラフィックだけでなくテキスタイル(洋服などの布地)を扱ったりと、幅広いプロジェクトを経験できました。

日本で学んでいた頃との違いで印象深いのは、プロセスに対する評価が重視されていたことです。テーマに対して、どのような思考やリサーチによって自分なりの解釈を与えたか。デザインに対する“哲学”のようなものが問われていた気がします。思考過程さえあれば最終的な作品がなくてもいいケースもありましたし、論文を書きながら作品をつくっていた記憶があります。

欧米流のデザインの手ほどきを受けて帰国したのち、Sakiさんが最初のキャリアとして考えたのはIT系の事業会社だったと言います。一般的な「美大のデザイン専攻卒業」というイメージからギャップのある業界をあえて志望したという理由は何だったのでしょうか。

Saki: ロンドンで学んできたことにもつながりますが、グラフィックに特化した仕事をするというよりも、UIやUXなど、サービスとしてのデザインに関わりたいと考えていました。そうした仕事がどこにあるのかを考えていくうちに、必然的に自社サービスを持つIT企業が候補に並んでいきました。

結果として楽天を志望したのですが、採用面接でも「楽天市場のUIはどう思うか」といった質問をされるなど、自分が進みたい方向との親和性を感じたことが決め手になりました。中でも、デザインラボに配属されたことで、デジタルだけでなく、いろいろなレイヤーのデザインに関わることができています。

ウェブサイトのデザインやキービジュアルの制作といったデジタル領域の仕事のほか、プロモーション用のツール作成、楽天がスポンサーシップを手掛けるスポーツイベントの招待状などのデザイン、さらにはオフィスデザインの監修といった仕事まで、楽天のデザインに関わる多岐にわたるプロジェクトにSakiさんは携わっています。

リサーチを重んじるからこそ生み出せる新しさ

Sakiさんにとって代表的なプロジェクトのひとつが、キャッシュレス需要も相まって成長を続けている「楽天カード」の新しい券面デザインの作成です。日本にとどまらず、台湾で今シーズンから楽天がオーナーシップを取得したプロ野球チーム「楽天モンキーズ」(以下、モンキーズ)のカード券面デザインにも携わっています。

Saki: 多くのファンが手にするカードなので、生まれ変わったモンキーズと、楽天ブランドを広く知ってもらうためにとても重要なアイテムです。楽天は台湾でも「楽天市場」の台湾版や電子書籍の「楽天Kobo」を展開しているので、台湾の消費者と楽天ブランドとの関係性を築く入り口として、券面デザインにはこだわりをもって取り組んでいきました。

デザインは球団選手、モンキーズのチアリーディングチームである「Rakuten Girls」、マスコットキャラクターをテーマにした3種類。これまで経験のない領域で、Sakiさんはデザイナーとしてどうアプローチすべきか、模索しながらプロジェクトを進めていったと言います。

Saki: まずは台湾で流通しているクレジットカードの券面デザインを徹底的にリサーチして、傾向をつかむ作業から入りました。チアリーダーをモチーフにしたカードのデザインは日本にもなかったので、日本のアイドルのものを参考にしながらアイデアを膨らませていきました。

ただ球団としても、楽天としても力強いイメージは損なわないように、球団側とも相談をしながらイメージをまとめていきました。言葉も違えば文化も違います。その中でコミュニケーションをしていく工程は簡単ではなかったのですが、海外での仕事にもチャレンジしていきたいと考えていたので、非常に良い経験になりました。

過去のデザイン、台湾の消費者の嗜好、プロジェクトメンバーの声と自分自身の感覚。リサーチのプロセスを大切にすることによって、伝えるべきメッセージを設計し、デザインに反映させていったと言います。

佐藤可士和氏のディレクションから受ける刺激的な体験

もうひとつ、このプロジェクトで印象に残った体験が、楽天のチーフクリエイティブディレクターである佐藤可士和氏によるレビューだったと話します。

Saki: 可士和さんは基本的に、デザインラボで協議されるデザインすべてに目を通されています。ジャンルの異なる様々なクリエイティブをレビューされていきますが、まず驚くのはそのスピードです。

2時間ほどのレビューの中で10件、20件といったデザインに次々と指摘を入れていきます。本当に少し見ただけで「こことここのフォントが合わない」といった細部にわたる気付きや、企画のコンセプトに関わるような洞察まで、フィードバックされていきます。

モンキーズのカードでは、球団側の声はもちろんですが、ファンが選手をどのように捉えているのか、色々な視点で考えた上で写真を選ぶようにとアドバイスを受けました。

これはモンキーズのカードデザインに限らずですが、私が可士和さんから常に感じているのは、デザインを受け取る人のことを第一に考えているという点です。時には下地になる柄の配置を0.1ミリ単位で調整したりなどもありますが、「虫の目」と「鳥の目」を同時に使いこなす姿を目の当たりにするのはとても刺激的です。わずかな時間のことですが、デザイナーとしてこれほど勉強になる時間はありません。

多様なプロジェクトへの参画、佐藤可士和氏からディレクションを受けられる仕事によって日々デザイナーとしての新たな地平を拓き続けるSakiさん。彼女にとって、デザインラボの仕事とはどういったものなのでしょうか。

Saki: これまで色々な楽天のデザインに関わってきた中で、楽天らしさとは多様性であり、それをデザインとして調和させるカギは「シンプルさ」と「力強さ」なのではないかと思っています。それをサービスやデザインする対象にチューニングしながら表現するのが、私たちデザインラボの仕事なのではないかというのが今の考えです。

私自身、表現の際には、引き算を意識しているんです。可士和さんと会話をする中でも、あしらいに趣向を凝らすよりも、簡潔さを重視することが大事だということを感じ取っています。

「シンプルさ」と「力強さ」で世界に“Rakuten”を発信

その「シンプルさ」と「力強さ」をSakiさん自身が表現したデザインがあります。米国ボストンで毎年行われる学生向けの就職イベント「ボストンキャリアフォーラム」に楽天が出展した際に配布した、楽天グループを説明するポートフォリオ冊子です。

Saki: 楽天の多様な姿を表現するために、それぞれのサービスのロゴを中心に据えました。行き着いたのが、究極的には文字を読まずとも、ひと目見ただけでサービスの幅広さが伝わるような構成です。あえて一般的なパンフレットの判型にせず、楽天ロゴと同じ縮尺の長方形にし、各サービスのロゴを次々とめくりながら見てもらうデザインとしたことで、楽天ブランドをシンプルに、かつ力強く伝えるひとつの仕掛けとして機能したんじゃないかと思います。

個々のサービスとしての楽天、それらの集合体としての楽天。グループ全体を俯瞰しながら仕事をする中で、Sakiさんは楽天というブランドを次のように話します。

Saki: 国をまたぎ、多様なサービスとそのユーザーを持つ楽天は、それぞれのサービスが主体性を持つと同時に、「ひとつのブランド」でもあります。価値観や文化など、違った立ち位置がある前提は崩さず、同じ方向を向く。それぞれのサービスを同質化させるのではなく、オープンでゆるやかな関係性をみんなが自然に志向しているのが、楽天グループの風土なのかなと感じています。

実際に、2018年に一新した楽天のロゴは、漢字の“一”をモチーフにデザインされており、そこに込められた意味の一つに「Unity」(ひとつになる)という意味が込められています。

Sakiさんのデザインのモットーは「長く使えるデザイン」。そこには「ビジネス上の目的を果たすだけではなく、デザインに触れた人に1秒でも長く楽しんでもらいたい」というクリエイターならではの思いがあると言います。

課題解決やその設計を主眼にした “デザイン”に対して、人の美的感覚に訴えるような“アート”は自己表現──。ロンドン大学の面接で言われた「どっちも同じだ」という言葉は、Sakiさん自身の現在のモットーにも反映されているのでしょう。

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