Rakuten ✕ BizReach「UX RUN! 事業に貢献する、UX組織の挑戦」イベントレポート

顧客のサービス体験、いわゆる「ユーザーエクスペリエンス」(User Experience、以下「UX」)を理解し、サービスの価値を創造していくUXデザインに注目が集まる近年、そのプロセスを社内で定着させるために取り組んでいる企業が増えてきています。

楽天も、5年ほど前からUXの専門組織を立ち上げました。サービスの体験を向上し、顧客満足度を高め続けることは、企業活動を持続性のあるものにするために必要不可欠です。これまでに楽天がUXデザインを用いてどのように事業貢献してきたかを外部に共有することで、日本の事業会社で同じようなチャレンジに向かってアクションを起こしている人たちの助けになり、また、会社の垣根を越えて集まることで日本全体のユーザー体験向上に貢献できるのではないか。

そのようなUXチームの想いから、人材領域を中心に様々な事業を展開するビズリーチと共同で、“事業に貢献する”UXについて話し合う公開トークイベント「UX RUN! 事業に貢献する、UX組織の挑戦」を開催しました。

イベントでは、UX専門組織を立ち上げて5年の楽天と、「エクスペリエンス戦略室」を昨年立ち上げたビズリーチそれぞれの組織のキーパーソンが登壇し、各社両視点からUXの組織の立ち上げに至った理由や、立ち上げ時の工夫についてなど様々な話題が語られました。

企業のUX担当者や業界に興味を持つ方たちが参加されたイベントの様子を一部抜粋してレポートします。



UX専門組織を社内に立ち上げた理由について

楽天 佐藤 友哉(以下、佐藤): 2013年、顧客のサービス体験の向上が今後ますます重要になるので楽天グループ全体で強化していきたいという話があり、社内にUX専門組織を立ち上げることになりました。それまで、ABテストを回し、データ・ドリブンでサービス改善を行ってきましたが、実際に使ってくださる顧客の生の声を直接聞くということがあまりありませんでした。

まず始めに考えたことは、UXデザインプロセスにおいて最もコアにある「ユーザーリサーチ」の標準化と定着化です。お客様を理解し、そこから学習・発見すること。それからUXのKPIを取り・定量化する、つまり転換率や流通額に加えて、顧客の意識・行動に基づいた顧客視点の指標をつくり、それを目標としたりビジネスに対する貢献を可視化すること。この2点がまず重要だと考えました。

何からスタートするかを考えたとき、最初から完璧な美しいプロセスや複雑な手法をやろうとする必要はなく、シンプルに楽天のサービスを利用するお客様を理解することに徹底すること、つまり「ユーザーリサーチ」を当たり前の社内文化にすることをチーム発足当時最初の目標に掲げました。

そこで、UXがビジネスにどのような好影響を与えるのかを実感してもらうため、一般的に理解が曖昧な“UX”という言葉はあえて使わず、社内の各事業部に寄り添いながらそれぞれの事業課題を解決するというスタンスで話をし、結果として、顧客を理解するUX的なアプローチが必要になるということを説明してプロジェクトの提案を行っていきました。そのようなプロジェクトに数多く向き合い、成果を出しながら周囲に価値を感じてもらい地道に実績を築いてきたのが黎明期です。

(左から)田中 裕一氏(ビズリーチ CDO/デザイン本部 本部長)、景山 泰考氏(ビズリーチ デザイン本部プロダクトデザイン室 マネージャー/エクスペリエンス戦略室 マネージャー)、佐藤 友哉(楽天 ブランド&マーケティング戦略部 ユーザーエクスペリエンス戦略課 UX戦略グループ マネージャー)、河村 征志(楽天 ブランド&マーケティング戦略部 ユーザーエクスペリエンス戦略課 UX戦略グループ CX・UXストラテジスト)

UXを改善して生まれるベネフィット(利益)を横断的に伝える

ビズリーチ 田中 裕一氏: 一方、ビズリーチは転職サービスから始まった会社で、現在では事業が多角化し、また、事業承継M&Aプラットフォームなどの人材領域以外のサービスもどんどん立ち上げています。そういった動きの中、今後サービス間でUX領域での社員の知識や理解度に差ができることが予測されるので、UXに関する知見や実践を横断的にサポートする機能が必要と考え「エクスペリエンス戦略室」を作ることに決めました。

UXというものは非常に定量化しづらく、投資しづらいものです。経営の観点で判断できるように、ROI(投資対効果)をビジネスの構造でしっかりと組み立て、短期的、長期的にはこんなベネフィット(利益)がありますと、熱意を込めて説明しました。また、確証のないものへ投資してもらうためには信頼も非常に重要です。発言する人が今まで何をしてきたのか、信頼に値するか、熱意はあるか。そういった「信頼貯金」を日常業務で貯めておくことも大切でした。

ビズリーチ 景山 泰考氏: いざ「エクスペリエンス戦略室」を立ち上げて全社共有をした際、UXに対する注目度が非常に高く、期待値が上がりすぎている感覚がありました。そのため、各事業に話を聞き、その事業が欲しているのはUXデザイナーか、事業課題の設定なのか、または組織設計なのか?まずはそこを明らかにすることが必要でした。

事業が考えていることをすばやく整理し、提示していく。そういった活動を繰り返して事業長の信頼を得ていき、また同時に現場とのコミュニケーションを密に取ることを意識して活動しています。

ビズリーチ 田中裕一氏、「UXというものは非常に定量化しづらく、投資しづらいもの。経営の観点で判断できるように、ROI(投資対効果)をビジネスの構造でしっかりと組み立て、短期的、長期的にはこんなベネフィット(利益)がありますと、熱意を込めて説明しました」とUXの価値を伝え、信頼を築くことの重要性を説明した

現場を巻き込み理解を得ていった、楽天の「UXリサーチルーム」

佐藤:楽天でのUX戦略グループ発足当初、まず取り掛かったのは顧客理解のための環境整備です。お客様を理解する「仕組み」が必要と考え、社内に「UXリサーチルーム」を設計することから始まりました。

楽天 河村 征志 (以下、河村): UX組織を立ち上げてからしばらくの期間、佐藤と私の二人だけで活動をしていました。UXの価値を肌で感じてもらうため、デザイナーだけでなく、ディレクター、開発、マーケティングなどサービスに関わるすべての社員にアプローチをかけ、徹底的に現場を巻き込むように心がけました。

「UXリサーチルーム」とは、実ユーザーを弊社内インタビュールームに招き、Webサイトやアプリを使っている様子を見させていただいたり、お話をうかがったりすることで課題発見や共感からサービス改善を行う場です。インタビュールームの隣室には大画面ディスプレーが設置された約30人収容可能な観察ルームを併設しているので、様々な職種の社員がユーザーリサーチをリアルタイムで受け止め、その場で改善プランの検討から意思決定まで、スピーディに議論、実行されています。

「UXリサーチルーム」のイメージ。2018年の年間平均稼働率は90%以上。ユーザビリティ品質を定性的、定量的に評価し、顧客KPIに基づき基準を下回るサービスは提供開始前に改善するというルールを“仕組み化”し、浸透させることに成功している

河村:「UXリサーチルーム」開設当初、役員クラスの方に声をかけ、実際に見学してもらい顧客の反応を肌で感じてもらう「役員キャラバン」を実施しました。参加率は70%を超え、顧客理解の必要性を実感いただけた事業のトップ層から現場社員へと拡散していただきました。 また実際に「UXリサーチルーム」を利用した社員から別の社員へと評判が広がるなど、ボトムアップから認知を広げることもできました。

リサーチに活用してもらう際も、関係者全員にインタビューの場に来てもらえるように呼びかけました。インタビューが行われているその場でリアルタイムにディスカッションが始まったり、結果そこで解決策の判断が行われたりと、来て見てもらって初めてわかる価値がたくさんあります。実際に、無料通話&メッセージアプリ「Viber」のトップが視察に訪れた際、その場でルクセンブルクにある本社に電話を掛けて改善したこともあったんです!

左)「楽天トラベル」の旧スマートフォン画面 (右)変更後のスマートフォン画面

シンプルで分かりやすく、必要な情報をユーザー視点で整理。ユーザーリサーチを行い、結果をもとに改善案をページへ反映することでCVR(転換率)向上や史上最多のクーポン発行数など実際にビジネス貢献へとつながった事例が当日のトーク内で紹介された


楽天のUX向上活動の今後

佐藤: 「ユーザーリサーチを当たり前の文化にする」と掲げて5年。もはやUXの重要性に異を唱える人はいなくなったと思います。最初は誰が使うの?専門家?といった声も挙がっていた「UXリサーチルーム」ですが、2018年の年間平均稼働率は90%以上と設立当初の40-50%を大きく上回りました。この5年間でユーザビリティ品質を定性的、定量的に評価し、基準を下回るサービスは提供開始前に改善するというルールを“仕組み化”し、浸透させることにも成功し、HCD(人間中心設計)の団体から、HCDベストプラクティスアウォード2017奨励賞 プロセス・メソッド部門もいただきました。それからNPS(顧客推奨度)もグループ全体で重要なKPIとなりましたし、エクスペリエンス向上によるビジネス成果(転換率や売上など)も着実に上がり、楽天のUXを取り巻く環境は大きく変わりました。

河村: 今後は、はじめのユーザーリサーチで本当に顧客理解ができているのか、サービス提供までのプロセスは正しく動いているのか、リサーチの結果を正しくプロダクトに落とし込めているか等、全行程において精度を上げていくことを目指し、活動を続けていきます。



イベントを振り返って

佐藤: 今回の登壇が少しでも参加者の方の役に立ち楽天のUX組織も知っていただけたらという思いでしたが、定員を大幅に超える応募や、イベント後にTwitterで非常に良い反応をいただくなど、こちらが想像していた以上の反響があり嬉しく思います。今後より社外の方ともオープンなUXコミュニティをつくっていきたいと考えています。

河村: 我々と同じ志を持った方がいて、その方たちも同様に顧客志向を事業にインストールする取り組みを行っている。その事実を、集まってくださった方たちと話すことで実感できたのは非常に意義がありました。これからも様々な企業と顧客が健康的な関係を構築できるよう、このような活動継続に努めたいと思います。


本トークイベントは対談後に懇親会もあり、そこでは登壇者と参加者が活発に意見交換する様子も見られました。すでに第2回も開催が決定しているそうで、早速新しいUXコミュニティが広がっていきそうな良い雰囲気のまま、イベントは終了となりました。

なお、楽天のUXをはじめとするクリエイティブ領域についてはキャリア採用サイトでも紹介しています。是非こちらもご覧ください!

https://corp.rakuten.co.jp/careers/creative/

(イベント写真提供:ビズリーチ)

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