サステナブルファッションについて、聞いたことはあるが具体的にどのようなファッションなのかわからない、また、興味はあるけれどどのように取り組むべきか分からないという方は多いのではないでしょうか。
この記事では、サステナブルファッションの具体例から私たちができる取り組み、サステナブルファッションに取り組むブランドの紹介など、実践に役立つ基本的なポイントについて解説します。
サステナブルファッションの意義や押さえるべきポイントを正しく理解して、毎日のファッションに上手に取り入れてみましょう。
5.サステナブルファッションの取り入れ方や、私たちができることは?
サステナブルファッションとは、衣服の製造から販売、また利用して不要になったあとの回収やリサイクルまで、すべての段階において、持続可能(サステナブル)であることを重視する取り組みのことです。
ファッション業界は、これまで労働者や環境への負荷が大きく、多くの課題を抱えていました。例えば、素材や製品の生産時の環境汚染、大量消費、大量廃棄、生産者の長時間労働や低賃金な労働環境などが挙げられます。
そこで登場したのが、以下のように地球環境や労働環境に配慮し、生産から回収・リサイクルまで、アパレル用品の一連のサイクルを負荷なく持続可能にする取り組みである、サステナブルファッションです。
原材料を調達する段階 |
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製品をつくる段階 |
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販売する段階 |
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販売後の段階 |
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近年、このようなサステナブルな取り組みは、ファッション業界にとどまりません。サステナブルについて詳しく知りたい方は サステナブルとは?SDGsとの関係や取り組み事例を紹介 をご覧ください。
エシカルファッションは、サステナブルファッションと関連が深いキーワードです。エシカルとは「倫理的な」を意味します。
エシカルファッションは、素材選定から生産、販売に至るまでのあらゆる工程で、人と環境に配慮したファッションのことです。サステナブルファッションとエシカルファッションで明確な区別はなく、同じ意味で使われることが多いですが、エシカルファッションはサステナブルファッションと比べて、労働者の人権など社会的な問題を優先して改善しようとしているのが特徴です。
つまり、環境問題の解決をより重視するのが「サステナブルファッション」で、労働環境の適正化を重視するのが「エシカルファッション」という違いがあります。
スローファッションとは、品質が高くて環境に配慮した素材の服などを、長く着用することに価値があるとするファッションの考え方のことです。
低価格で最先端の流行を取り入れた衣類を、次々と買い替えるスタイルを意味する、ファストファッションの対義語として使われています。
大量消費・大量廃棄をやめて、地球環境や社会環境に配慮したファッションを楽しむ点では、スローファッションはサステナブルファッションと類似した考え方です。
サステナブルファッションが注目されるのは、以下のようなファッション業界の抱える問題点を解決するためです。
サステナブルファッションが注目される3つの背景について、どのようなものなのか、それぞれわかりやすく説明していきます。
ファッション業界では、原材料の調達をする段階・衣服を製造する段階の両方で、環境にさまざまな負荷を与えています。
コットンのような天然素材の場合、原料となる植物の栽培に大量の水資源を消費しています。また、ポリエステルのような合成繊維の場合は、石油資源を大量に消費するのが難点です。
環境省によると、ファッション業界全体(世界中)で、衣料を生産する段階(原材料調達から製造)の二酸化炭素の排出が年間約90,000ktとされており、問題が山積みです。
製造段階でも、以下のような問題があります。
さらに、生地を裁断するときに出てしまう年間約45ktもの端材が廃棄物とされており、その処理のために、環境へ大きな負担をかけています。
流行の移り変わりが早いファッション業界は、大量消費・大量廃棄の傾向にあります。トレンドの変化に合わせて、衣服が大量に消費され、流行が終われば大量に廃棄されるからです。
特に、安い価格で流行をいち早く取り入れられるファストファッションが台頭したことで、衣服の供給量は大幅に増加し、大量消費・大量廃棄に拍車がかかるようになりました。
先述の通り、衣服を生産する際、生産した分多くの環境負荷がかかります。さらに、販売者側が大量の在庫を処分することや、消費者が飽きたり、衣類やサイズが合わなくなったりしたものを次々に廃棄することが、問題となっています。
環境労働者の人権問題も、サステナブルファッションが注目される理由です。
2013年4月に起きた、ラナプラザ崩壊事故をきっかけに、ファッション業界における労働環境の劣悪さに注目が集まりました。
※ラナプラザ崩壊事故とは、ファッション業界史上最悪の事故とも呼ばれている事故です。2013年にバングラデシュの首都ダッカにあるアパレルメーカーの下請けをしている工場が入った「ラナプラザ」というビルが突然崩落し、1,000人を超える人々が亡くなった事故のことを指します。この事故の原因は、違法建築やずさんな安全管理が引き起こし、前日に亀裂を発見しても無視して働かせた劣悪な労働環境によって被害が大きくなりました。
長時間労働・低賃金などの問題に加えて、綿花を生産する際に農薬を大量に使用することで起こる健康被害も、問題として挙げられています。
企業が、サステナブルファッションに関連して行っている取り組みの代表例は、次のとおりです。
具体的な取り組み内容を、順番に確認してみましょう。
リサイクル繊維とは、廃棄する予定だったプラスチックなどを再利用してつくられた繊維のことです。使用済みペットボトルなどが、リサイクル繊維の原料となっています。
リサイクルされた素材を利用することで、ごみを減らすとともに、製品をつくるために使用する新たな資源の量を少なくすることができます。
また、リサイクル繊維を活用することで、資源を再利用できる循環型の生産・消費プロセスを確立することが可能です。
企業では、不要になったらリサイクルすることを想定し、簡単に再利用できるように、分解しやすい素材や単一素材での商品開発を進めています。
リサイクル技術の開発を進めることも、サステナブルファッションの有用な取り組みといえるでしょう。
適正な在庫管理も、サステナブルファッションの重要な取り組みです。
受注生産をする・生産数を少なめに抑えるなど、本当に必要な数量の服をつくることで、在庫を過剰に抱えることを防ぎ、廃棄する量を減らせるからです。
さらに、適切に在庫管理すれば、薄利多売に走る必要がなく、適正価格での販売がしやすくなります。
利益をきちんと確保できるようになれば、労働環境の適正化や、高品質で環境負荷の少ない製品の商品開発にもつながるでしょう。
ただし、生産量を減らすと、生地のロスが出やすくなるリスクもあります。近年、精度が向上している売上予測システムを活用するなどの工夫をすることで、無駄のない在庫管理をすることが重要です。
フェアトレードとは、適正価格での取引のことです。
具体的には、発展途上国でつくられた素材や衣類を購入するときに、過剰に値引きさせることなく、現地の労働者の生活が守られる価格で取引することです。
現在、世界で流通する衣服の多くは、発展途上国で生産されています。そして、発展途上国では、低賃金での長時間労働による労働者の搾取が問題となっているのが実情です。
だからこそ、フェアトレードで適正な価格の取引を心がけ、労働者に利益を還元することが大切なのです。
アニマルフリー素材とは、フェイクファーや合成皮革のような、動物由来でないアニマル素材のことです。
先述した自然環境や労働環境の問題の他に、ファッション業界の問題の1つとして、動物の搾取が取り上げられることがあり、アニマルフリー素材はこの問題を解決できます。
そのため、リアルファーや本革などのアニマル素材の使用を控えることも、サステナブルファッションにつながるのです。
ただし、食用にした動物の副産物として出たファーや皮革を衣服の素材として用いる場合などは、有効利用につながるケースもあります。そのため、動物由来の素材の利用が必ず環境に悪いとは限らず、人工の素材(石油由来の化学繊維)を用いることで、加工工程における二酸化炭素の排出量が増えたり、マイクロプラスチックの問題につながってしまったりするなどかえって環境への負担となる場合もあることには注意が必要です。
サステナブルファッションを掲げるブランドは数多くあり、有名なものには、PeopleTree(ピープルツリー)や、Patagonia(パタゴニア)などがあります。
それでは、それぞれどのような取り組みを行っているか見ていきましょう。
PeopleTree(ピープルツリー)は、フェアトレード・ファッションの先駆者ともいえるブランドです。日本やイギリスに展開してサステナブルファッションを、約30年提供しています。
また、アジアやアフリカ・中南米などの国や団体と協力し、その土地ならではの自然素材を活用して、製品の企画・開発を行っているのが特徴で、発展途上国の労働者と適正な価格で取引を行うことや、技術研修の支援などにも力を入れています。
Patagonia(パタゴニア)は、1972年から環境主義を掲げ、SDGsの達成や環境保護を重視して事業活動を行うアパレルブランドです。
公式ホームページによると、2025年までにリサイクル素材100%利用を目指しており、2023年時点で、全製品の98%にリサイクル素材の利用を実現させています。
また、リペアセンターを設立し、消費者が同じ服を長く利用できるよう取り組みを行うなど、徹底的に環境への配慮を貫いているのが特徴的です。
サステナブルファッションを取り入れるには、次のようなことを心がけると効果的です。
以下では、それぞれの取り組みについて、ポイントを解説していきます。
サステナブルファッションを取り入れるなら、どういう素材を使っているか確認してから商品を購入しましょう。
衣服を生産する過程で環境や社会問題に適切な配慮がされているかを、調べることが必要だからです。
これは、「オーガニックテキスタイル世界基準認証」「国際フェアトレード認証ラベル」など、第三者機関から認証されたマークの有無を確認することで調べられます。
オーガニックテキスタイル世界基準のマーク
オーガニックテキスタイル世界基準認証(GOTS)は、オーガニックの繊維製品の基準と認証マークで、環境や社会に配慮した加工・流通されたことを示すものです。オーガニックについて、詳しくは オーガニックとは?意味や目的を簡単に解説 をご覧ください。
また、1着を長く着続けるためにも、生地はしっかりしていて傷みにくくないかなど、品質を確かめてから購入することも大切です。
他にも、楽天の EARTH MALL with Rakuten では、バラエティ豊かなサステナブルファッションを取り扱っています。フェアトレードやオーガニックの認証ラベル付きアイテムなどを、簡単に検索できて便利です。
サステナブルファッションを取り入れる上で、企業やブランド、生産者情報を調べることも欠かせません。
商品について、環境問題や社会問題に配慮したブランドなのかを事前に調べてから、買うかどうかを判断することで、サステナブルな取り組みに間接的に協力できます。
例えば、購入しようとしている服が「どこで生産されたか」「生産時の労働環境はどうなっているか」といった点を、インターネットなどで調べてみましょう。
すべての情報が手に入るわけではありませんが、まずは知ろうとする意識を持つことが大切です。
古着屋やフリマアプリを活用し、古着を購入することも、サステナブルファッションを取り入れる方法の1つです。
古着を購入することで、服を長く着用することができるので、ごみの量を減らせます。古着は、1点ものの服やアイテムもあるので、ほかの人とファッションがかぶりにくくなるという魅力もあります。
また、自分があまり着用していない服は、すぐに廃棄するのではなく、古着として他の方に着てもらえるようにすることもおすすめです。
古着の購入や販売は廃棄物を減らすことにもつながり、さらにフリマアプリを活用することで探していたアイテムやお得なアイテムを探すことも可能です。楽天のフリマアプリ「楽天ラクマ」なら、楽天ポイントを使うことも貯めることもできるのでお得に古着を購入できます。
ファッションについて、リサイクル・リユースを意識することも、私たちができるサステナブルな取り組みです。
例を挙げると、以下のことが挙げられます。
また、先ほど紹介した 楽天ラクマ では、古着の購入だけでなく、着なくなった服などを出品することもできます。
着用する機会が減ってしまった服などは、お直しやリペアをしてくり返し利用すれば、ごみの量を減らし、環境改善につながります。
リペアやリメイクをすることで、改めてアイテムへの愛着が湧き、飽きたと思っていた製品を末長く利用できるケースも多いでしょう。
自社製品のリペアを事業として行っているアパレル企業もあるので、「リペアを行ってくれるかどうか」を調べてから購入するのもおすすめです。
サステナブルファッションとは、ファッションアイテムの生産から販売・利用後までのライフサイクル全体について、持続可能(サステナブル)であるよう配慮するあり方のことです。
環境負荷や大量廃棄・厳しい労働環境など、ファッション業界が長らく抱えてきた問題を解決するために、サステナブルファッションという考え方が重視されるようになりました。
私たちも、サステナブルな素材やブランドを選んだり、古着を活用したりと、さまざまな方法でファッション業界の課題解決に協力することができます。これからは、ファッション選びの基準の1つに、「サステナブルかどうか」を加えてみませんか。
このように自然環境や生態系などに配慮してつくられたオーガニック商品を日々の生活の中に取り入れることで環境改善への貢献につながります。私たち消費者もこれからの健康や環境のことを考えて、できることから始めてみてはいかがでしょうか。
東京大学大学院工学系研究科博士学位取得。国立研究開発法人主任研究員などを経て、2019年度よりIGES専任。日本低炭素社会研究プロジェクト(2004年~2008年)やアジア低炭素社会研究プロジェクトの幹事(2009年~2013年度)として携わり、中央環境審議会地球環境部会中長期ロードマップ小委員会専門委員として、2050年までに二酸化炭素排出量を大幅削減する「低炭素社会」のシナリオ作りに携わった。気候変動のCOPには2005年(COP11)から継続して参加。