食品ロスとは、まだ食べられる食品が、大量に捨てられてしまい資源不足や環境に悪影響を与えている問題のことです。SDGsの観点などから解決が急がれるため、すでに、企業や国が対策に乗り出しています。
加えて、毎日の生活の中で、私たち一人ひとりがちょっとした心掛けをすれば、食品ロス問題の解決に貢献することができます。だからこそ、正しい知識を身に付けて、毎日の生活を見直すことが大切です。
食品ロスという言葉を聞いたことはあっても、
「食品ロスとは、具体的にはどういうことで、何が問題なのかわからない」
「食品ロス問題を解決するためには、どのような対策方法があるのだろうか」
と疑問を持たれている方のために、この記事では、食品ロスについて、原因や解決する必要性・国や企業での取り組み例・私たちができる対策などについて、わかりやすく解説します。
食品ロスの基本を理解して、日本や世界のためにできることを、今日から始めてみましょう。
2.食品ロスを減らすために国や企業が行われている取り組みは?
食品ロスとは、まだ食べることのできる食品や食材が、お店や家庭などで、たくさん捨てられてしまっている問題のことです。
世界中で問題になっている食品ロスですが、日本における状況も深刻です。
農林水産省によると、日本の食品ロスの量は、年間523万tにも上ります。これを、日本人1人あたりで考えると、1年に約42kgも捨てている計算になります。
食品ロスは、食品製造業や小売業などの事業から出る「事業系食品ロス」と、それぞれの家庭から発生する「家庭系食品ロス」の2種類に大別されます。
事業系食品ロス |
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家庭系食品ロス |
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※参考:農林水産省「食品ロスとは」
上記のとおり、家庭系食品ロスは日本の食品ロス全体の47%で、ほぼ半分を占めているのが現状です。家庭での食品ロス削減に向けた対策が、いかに重要であるかがわかりますね。
なお、食品ロスと似た言葉に、フードロス(Food Loss)があります。日本では、ほぼ同じ言葉として扱われていますが、厳密に言えば違う言葉です。
フードロスは、生産や収穫・輸送・製造・加工・包装までの間に廃棄されてしまう食品や食材を指すので、食品ロスよりも範囲が狭くなります。
食品ロス |
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フードロス |
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食品ロスには、事業系食品ロスと家庭系食品ロスそれぞれに、発生原因があります。
事業から出る食品ロスの主な原因は、商品の破損や商品の売れ残りなどです。他にも規格外品の処分や、生産量が多すぎて売れ残った返品が発生した、お客が食べ残したなどが挙げられます。
出典:農林水産省,
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_4.html
(閲覧日:2023年12月7日)
農林水産省によると、事業系食品ロスの排出元は食品製造業が最多の24%、以降は、外食産業が15%、食品小売業が12%、食品卸売業が2%となっています。
家庭での食品ロスの代表的な原因には、食品を食べきれずに捨てる、料理を作り過ぎて食べ残して捨てる、食材が賞味期限を過ぎて廃棄するなどがあります。
世界的に食品ロスを減らすべきであると言われている理由は、限られた資源の有効利用が必要であることに加え、環境問題の解決に欠かせないからです。
特に日本は食料自給率が低く、約3~4割程度しかありません。そのため食料の半分以上を、他国からの輸入に頼っています。そんな限りある資源である食料を大量に廃棄している現状は改善が急務です。
また、困窮している家庭の子どもが、満足に食事もとれないほどの食料不足も問題になっています。このように、食料が不足することで飢餓に陥っている国は数多くあるため、食べないからと言って捨てるのではなく、有効利用をすることが必要です。
さらに、食品ごみを処理することでエネルギーを消費し、ごみを燃やすことにより地球温暖化の原因である二酸化炭素の排出にもつながってしまいます。ごみを減らすためにも、食品ロスの削減が必要なのです。
このような事情から、食品ロス削減は、SDGs(持続可能な開発目標)のゴール2「飢餓をゼロに」や、12「つくる責任 つかう責任」などと深い結びつきがあります。
※SDGsとは、世界各国に存在する環境問題や貧困・差別などの課題を世界全体で解決するため、2015年に国連サミットで193の加盟国により、全会一致で採択された国際社会共通の目標のことです。
地球温暖化を含む環境問題について詳しくは、環境問題とは?いま起こっている主な問題と私たちにできることをご覧ください。
食品ロスを減らすために、2019年10月1日に消費者庁によって「食品ロスの削減の推進に関する法律(通称、食品ロス削減推進法)」が施行されました。
食品ロス削減推進法は、いろいろな団体や個人がボーダーレスに協力して、食品ロスを削減することを目指して制定された法律です。
食品ロス削減のために、国などはどのような責任を負うのか、どういう方向性で進めていくべきなのか、といった内容が定められています。
これを受けて、2020年3月31日には、政府や地方自治体・事業者・消費者が食品ロス削減に向けてどのように取り組むべきか、具体的な方針が閣議決定されました。
それでは、食品ロス削減に向けて、具体的にどういう取り組みがなされているのか、次章で確認してみましょう。
食品ロスを減らすために、国や企業は、目標設定・啓発活動・さまざまな工夫やサービス提供などを行っています。
ごみの発生を減らすために、食品産業では、2012年4月に食品リサイクル法にもとづく「発生抑制の目標値」が設定されました。
また、多くの地方公共団体で、食品ロス削減のための啓発活動が行われています。
食品メーカーでは、食品を食べきりやすい1人前ずつの個包装にするなど、食べ残しを防ぐ工夫をするケースが増えてきている状況です。
アプリ開発者と飲食店が協力し、ITベースのフードシェアリングサービスも提供され始めています。これは、営業時間が終了間際に残った食事を廃棄せず、安全で美味しい料理を最後まで楽しめる画期的なサービスです。
ここでは、食品ロス削減の取り組みの具体例として、
をご紹介します。
フードドライブとは、各家庭で余ってしまったり使いきれなかったりした不要な食べ物を集めて、必要とする地域の福祉団体や施設、フードバンクなどに寄付する活動のことです。
フードドライブに取り組むことで、食品ロスを減らすとともに、貧困で生活に困っている世帯などを支援できます。
公共の施設や学校・企業・マーケット・イベント会場など、人が集まる場所であれば、どこでも行うことが可能です。
定期的に実施する、イベントなどにあわせて単発で活動するなど、実施する側の状況に合わせられるので、気軽に取り組みやすいのも特徴です。すでに、全国の自治体や多くの企業などが取り組みを行っています。
全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会とは、食品ロス削減を目指して設立された自治体間のネットワークのことです。「おいしい食べ物を適量で残さず食べきる運動」を協議会の趣旨として掲げています。
全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会では、具体的には以下のような活動を行うこととしています。
「食べきること」を浸透させることで、3R(Reduce, Reuse, Recycle)の原則を実現し、食品ロスを削減することが、全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会の重要な目的です。
「30・10(さんまるいちまる)運動」とは、企業などの宴会で多く発生する食品ロスを削減するためのキャンペーンのことです。
30・10とは、「乾杯から30分間」と「宴会が終わる前10分間」の時間は、自分の席を離れずに出された食事を楽しむことを意味します。
飲食店で発生する食品ロスの多くが、食べ残しです。そのため、宴会開始時やお開き前に、幹事や上司などが呼びかけを行うことで、食べ残しをできるだけ減らすことを目的としています。
外食時・買い物・保存時・料理時など、生活のさまざまなシーンで、私たちができる食品ロスの対策があります。
外食時 |
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買い物・保存時 |
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料理時 |
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規格外野菜の購入 |
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前述の通り、家庭系食品ロスは日本の食品ロス全体の47%を占めていることから、食品ロス削減をするためには、私たち一人ひとりの取り組みが欠かせません。
対策方法について、もう少し詳しく説明しますので、ぜひ参考にしてみてください。
食品ロスを削減するためには、飲食店で食事をするときには、食べられる量だけを注文し、残さず食べるようにしましょう。
飲食店側としても、お客が注文した料理に食べ残しが出ると、廃棄するしかなくなるからです。飼料や肥料にする方法もありますが、コストがかかってしまうので、難しい側面があります。
空腹時にメニューを見ると、つい、いろいろと注文したくなるものですが、自分の食べられる量を考えて最初は控えめに頼むなどの工夫をするとよいでしょう。
食べ残しがないように心がけても料理が残ってしまったら、持ち帰りができるか確認して、できる場合は持ち帰るよう心がけましょう。また、お店選びの際、少なめやハーフサイズなど注文する量を選べたり、余った料理を持ち帰れたりするような、食品ロス削減に取り組んでいるお店かどうかを確認することもおすすめです。
買い物に出かける前に、家にどれくらいの食材があるのか、ストックを確認しましょう。
事前に在庫を確認することで、本当に必要な分だけ購入できるようになり、買いすぎて使いきれず廃棄することを予防できるからです。
また、すぐに使う食材を手前に並べられているものから購入することで、消費期限切れによるお店側の食品ロス削減に貢献できます。
購入後は、食品のラベルに示された保存方法に従って保管しましょう。食品を長持ちさせることができ、廃棄せずに済むからです。
また、賞味期限と消費期限の違いを理解することで、食品の無駄を減らせます。
賞味期限 |
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消費期限 |
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料理は、食べられる量だけを作ることで、食品ロスを削減できます。
家庭でも、食べ残してしまった場合、廃棄することになってしまうケースがほとんどです。さらに、食材の購入費用や作った手間も、無駄になってしまいます。
また、食材は上手に使い切り、食材が余ったときは別の料理に使い回すなどして、食べ残しや食品ロスを減らしましょう。
例えば、野菜の皮は薄くむく、ヘタの周囲を捨てず食べられる部分は食べる、などの対策も効果的です。
規格外野菜とは、通常の基準に合わない色・形・大きさを持つ野菜のことです。一般的に規格外野菜は廃棄されることが多く、食品ロスの原因となっています。
そこで、規格外野菜を取り扱うショップで購入することで、食品ロスへの対策が可能です。
最近では、規格外野菜をネット販売などで手軽に買えるようになりました。さらに、通常よりもお得に購入できる場合もあります。
例えば、楽天市場の訳ありグルメ特集や楽天ふるさと納税の訳あり返礼品特集では、賞味期限が近い食品や規格外野菜などを多く取り扱っています。
食品ロスとは、まだ食べられる食品が、大量に捨てられてしまっている問題のことです。飲食店などの事業と家庭の両方から、同じくらいの割合で食品ロスが発生しています。
食品ロスは、限られた資源を無駄にするだけでなく、地球温暖化を進行させる要因にもなります。
各家庭で、買い物や外食のときなどに食品ロスをなくすよう心がけることが、問題解決には欠かせません。「安易な買いすぎや食べ残しを控えることが、環境へ配慮することにつながる」という意識を持つことが、大切です。
東京大学大学院工学系研究科博士学位取得。国立研究開発法人主任研究員などを経て、2019年度よりIGES専任。日本低炭素社会研究プロジェクト(2004年~2008年)やアジア低炭素社会研究プロジェクトの幹事(2009年~2013年度)として携わり、中央環境審議会地球環境部会中長期ロードマップ小委員会専門委員として、2050年までに二酸化炭素排出量を大幅削減する「低炭素社会」のシナリオ作りに携わった。気候変動のCOPには2005年(COP11)から継続して参加。