近頃、「温室効果ガス」という言葉を耳にする機会が多くなりました。しかし、温室効果ガスについて何となく地球温暖化に関係していそうといった印象はあっても、具体的にどういうものなのかについては、よく分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、温室効果ガスについて、概要から温室効果ガスの種類、増えている原因や削減に向けた取り組みなど、押さえておきたいポイントをわかりやすく説明します。
また後半では、私たちができる温室効果ガス削減の取り組みもご紹介していますので、ぜひ、この機会に実践してみてください。
温室効果ガスとは、大気中の二酸化炭素やメタンなどの、温室効果を持つガスのことです。これらのガスが増えると、地球を温室のように保温し、地球気温を上昇させる効果があるので、温室効果ガスと呼ばれています。
温室効果ガスには、赤外線を吸収する性質があります。この性質によって、太陽の光(赤外線)で温められた地表の熱が、大気中にとどまるようになります。地球の平均気温が、過ごしやすい温度に保たれているのは、この温室効果ガスのおかげです。
しかし、大気中に温室効果ガスが増えすぎると、地球環境などに悪影響を与えてしまいます。近年ではこの温室効果ガスの増加が問題視されています。
温室効果ガスの代表的なものは、以下の4種類です。
このように温室効果ガスといっても、いろいろな種類があります。
ここからは、代表例である二酸化炭素・メタン・一酸化二窒素・代替フロン類の4つについて、どのような気体で、どういう場面で発生するのかなど基礎知識をまとめて説明します。
温室効果ガスの中で大きな割合を占めるのが、二酸化炭素です。環境省の「IPCC第6次評価報告書」によると、温室効果ガスのうち、75%が二酸化炭素となっています。
引用:JCCCA, https://www.jccca.org/download/13267
(閲覧日:2023年10月20日)
最も温暖化への影響がある二酸化炭素は、化石燃料の燃焼の際に多く排出される温室効果ガスです。化石燃料は主に、発電時や自動車の運転時などに利用されています。
現代では、家電製品が普及していることもあり電気の使用量が多いので、発電時に排出される二酸化炭素は、以前と比べて格段に増えてきています。
本来であれば、二酸化炭素は植物の光合成によって吸収されます。しかし、地球規模で森林が減っているため、二酸化炭素の増加に歯止めがかからない状態です。
メタンは、二酸化炭素に次いで影響の大きな温室効果ガスです。天然ガスの主成分であるメタンは、湿地や水田から発生するほか、家畜の飼育やバイオマス燃焼の際に発生します。
メタンは、温室効果ガスのうち、占める割合は18%と二酸化炭素より少ないですが、温室効果が大きいのが特徴です。100年単位で比較すると、メタンは、二酸化炭素の28倍もの温室効果があります。
そのため、二酸化炭素より割合が少なくても、積極的にメタンの削減に努めることが、地球温暖化を食い止める上で欠かせません。
一酸化二窒素は、硫安,塩安,尿素,石灰窒素,硝安,硝石などを含む肥料(窒素肥料)をつくるときや使ったとき、工場の排ガス(排気ガス)などが、主な発生源となっている温室効果ガスです。
一酸化二窒素が温室効果ガスに占める割合は4%と低いですが、メタンと同様に濃度に対して温室効果が高いのが特徴です。
また気象庁によると、一酸化二窒素は、大気中に排出されてから分解されてなくなるまでの期間が、109年と長くなっています。
そのため、一酸化二窒素は、いったん空気中に放出されてしまうと、長期間にわたって影響が出てしまいます。
代替フロン類とは、フロンガスの代わりに利用されている気体の総称です。
フロンガスは、さまざまな用途で使われてきた便利なガスですが、空気中に放出されるとオゾン層を破壊することが分かり世界的に問題となりました。そこで、オゾン層を破壊せず、フロンと同じ働きをする代替フロンが、多く利用されるようになったのです。
代替フロン類には、HFC・PFC・SF6など複数種類あり、以下のような、さまざまな場面で使い分けられています。
HFC |
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PFC |
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SF6 |
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代替フロン類は、オゾン層の破壊はしないものの、フロンと同程度に地球温暖化を進行させてしまう温室効果ガスです。
二酸化炭素よりも、はるかに高い温室効果があるとされているため、こちらも速やかな対策が必要です。
温室効果ガスが増えることで、地球温暖化につながり、海面水位の上昇や異常気象、生態系の変化などの悪影響を引き起こす可能性があります。
二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素などといった温室効果ガスの濃度が高くなると、太陽光による熱が、これまで以上に大気中にとどまりやすくなります。その結果、地球の気温が上昇していくことで、地球温暖化につながってしまいます。
温室効果ガスの濃度が増加している主な原因は、18世紀から19世紀にかけての産業革命以降、石炭・石油などの化石燃料を使う機会が増えたことです。
化石燃料を燃やすことで、二酸化炭素などの温室効果ガスが大量に発生してしまいます。
現代では、自動車の利用や電化製品などを使用する際の電気の利用増加に伴って、化石燃料が大量に使われており、温室効果ガスが増え続けています。
また、地球温暖化によって、世界の平均気温は、政府間パネル(IPCC)によると1880年から2012年までで0.85度上昇しました。工業化が進むにつれ、さらに気温上昇の速度は大きく上がっていると考えられており、深刻な状況です。
気温が上がり南極や北極の氷が溶けるなどして海面の水位が上昇すると、人間が安全に暮らせる陸地は減少してしまいます。既にツバルなどの島国は、今でも水没が危ぶまれている状況です。
また、海水温が上がると、雨雲が大きく発達しやすくなります。そうすると、台風の被害が大きくなったり、集中豪雨が発生しやすくなったりと、異常気象につながりやすくなるのです。
さらに、気温が上がり周辺の環境が変わることで、森林(植生)の変化や絶滅する生物種が出てくるなど、生態系が変化する問題が起こります。
このように地球温暖化は、多方面に悪影響を及ぼす問題であることを覚えておきましょう。
環境問題について詳しくは 環境問題とは?いま起こっている主な問題と私たちにできること をご覧ください。
温室効果ガスが増えている主な原因は、「化石燃料の大量消費」と「森林面積の縮小」の2つです。
もともとは、地球の平均気温を過ごしやすく保つために大切な役割を果たしていた温室効果ガスが、問題視されるほどに増えてしまった背景には、人間の生産・消費活動があります。具体的に、どのようなところが問題なのか、順番に見ていきましょう。
温室効果ガスが増えている原因の一つが、化石燃料の大量消費です。化石燃料を燃やすと、二酸化炭素などの温室効果ガスが、大量に発生してしまいます。
例えば、発電時やプラスチックの製造・廃棄時、自動車などの運転時など、さまざまな用途で化石燃料は消費されています。
現在の大量生産・大量消費社会は、化石燃料を消費することで成り立っています。また、発展途上国の発展によって、大量消費社会が世界的に拡大し、さらに多くの化石燃料の燃焼が必要になっているのが現状です。
そのため、化石燃料の消費を減らすには、社会のあり方や個人のライフスタイルの見直しが欠かせません。
森林面積の縮小も、温室効果ガスが増加している原因です。森林の面積が減少することで、二酸化炭素を吸収できる植物が減ってしまうからです。
農地にするために森林を焼き払う、燃料に使うために木材を大量に伐採する、異常気象による森林火災の大規模化などによって、地球上の森林面積は大幅に減少しています。
環境省によると、森林が失われ二酸化炭素の吸収量が減ってしまったことなどが原因で増加した温室効果ガスは、全体の2割にも及ぶとのことです。
このように、自然のサイクルの中で処理できる二酸化炭素の量が減少していることも、温室効果ガスの増加につながっています。
温室効果ガスの削減に向けて、日本を含めた世界各国で、省エネの推進や森林保全などさまざまな取り組みが行われています。
温室効果ガスの削減に向けて、「世界では大まかにどのような動きがあるのか」また、「日本では具体的にどのような取り組みをしているのか」を順番に解説します。
温室効果ガスの削減に向けた国際的な取り組みとしては、パリ協定の締結が挙げられます。
パリ協定とは、2020年以降の温暖化対策に関する国際的な取り決めをまとめたものです。1997年に決められた京都議定書を踏まえて、2015年にパリで定められました。
パリ協定では、「21世紀後半に温室効果ガス排出を実質ゼロにする(カーボンニュートラル)」という目標を掲げ、先進国だけでなく開発途上国にも、取り組みを行うよう呼びかけているのが特徴です。
現在、このカーボンニュートラルの達成に向けて、世界各国がそれぞれ目標を定めて、取り組みを行っています。
カーボンニュートラルについて詳しくは カーボンニュートラルとは?意味をわかりやすく簡単に解説 をご覧ください。
日本では、温室効果ガスの削減に向けて、事業分野の特性に合わせた積極的な取り組みが行われているのが特徴です。
例を挙げると、製造業では、温室効果ガス発生の原因となる電気の使用量を減らすため、省エネ性能の高い設備や機器の導入が進められています。それ以外の業務部門などにおいては、照明のLED化を進める、建物を省エネ性能の高い構造にしていくといった取り組みが行われています。
省エネを進めるだけでなく、森林など自然の保全や都市緑化の促進など、温室効果ガスの吸収量を増加させる取り組みも盛んです。
また、トラックの移動などによる二酸化炭素の排出量を抑えるため、さまざまな企業が対策を始めています。例えば、楽天グループは、再配達に係る配達員の方への負担やCO2排出量を抑制するため、楽天市場での購入品の配送状況やお届け日時を確認できたり、自宅外受け取りを可能にしたりすることで再配達を減らす取り組みを推進しています。(※ショップや商品によっては指定できない場合があります)詳しくは 【楽天市場】再配達をへらそう をご覧ください。
私たち個人でも、「電気の使用を節約する」「移動手段を見直す」「廃棄物を削減する」など、温室効果ガスの削減に向けて、できることはたくさんあります。
上記に挙げた3つの取り組みについて、どのように取り組むと効果的なのかを説明しますので、ぜひ参考にしてみてください。
各家庭で電気の使用量を減らすことで、消費する電力量を大幅に減少させ、発電に伴う二酸化炭素の排出量を抑えることができます。
電気の使用量は、以下のような簡単な方法で減らすことが可能です。
移動手段を見直し、自家用車の利用は控えて、代わりに公共の交通機関や自転車を使うようにしましょう。
各家庭が個別に自家用車を使用すると、他の交通手段を利用する場合に比べて、多くの二酸化炭素を排出してしまうからです。
公共交通機関や自転車を利用し、少しの距離なら徒歩で移動することを心がければ、ガソリンなどの化石燃料の消費量を減らし、温室効果ガス削減に協力することができます。
家庭で出るごみの排出量を減らすことも、温室効果ガスの削減に役立ちます。
これは、燃えるごみを焼却し、燃えないごみを破砕し埋め立てるなど、廃棄物を処理する際に多くの二酸化炭素が排出するからです。
廃棄物を減らすには、以下のようなことを日ごろから心がけると効果的です。
今日からでも廃棄物を減らし、温室効果ガス排出量を減らすことを意識してみてはいかがでしょうか。
温室効果ガスとは、大気中の二酸化炭素やメタンなど、太陽光の熱をとどめて温室効果をもたらす気体のことです。近年、化石燃料の大量消費や森林面積の縮小によって温室効果ガスが増え、地球温暖化の原因となっています。
温室効果ガスを削減するには、政府や企業の取り組みに加えて、私たち一人ひとりの取り組みも欠かせません。ライフスタイルそのものを見直し、温室効果ガスを削減できる暮らし方に変えていきましょう。
東京大学大学院工学系研究科博士学位取得。国立研究開発法人主任研究員などを経て、2019年度よりIGES専任。日本低炭素社会研究プロジェクト(2004年~2008年)やアジア低炭素社会研究プロジェクトの幹事(2009年~2013年度)として携わり、中央環境審議会地球環境部会中長期ロードマップ小委員会専門委員として、2050年までに二酸化炭素排出量を大幅削減する「低炭素社会」のシナリオ作りに携わった。気候変動のCOPには2005年(COP11)から継続して参加。