脱炭素社会とは、地球温暖化の原因である温室効果ガス(主に二酸化炭素)の排出をゼロにする社会のことです。
日本は、2050年までにこの脱炭素社会を実現することを目指しています。脱炭素社会を実現するためには、国や企業、個人が一体となって取り組むことが欠かせません。
ただ、そうは言っても、「脱炭素社会の実現に向けて、自分に何ができるのかわからない」と不安に感じている方は、多いのではないでしょうか。
この記事では、脱炭素社会の意味や国・企業の取り組み、個人でできる取り組みなどを紹介します。
一読することで、脱炭素社会の基本を理解し、必要な取り組みを実践できるようになりますので、最後まで目を通してみてください。
3.脱炭素社会実現に向けて各国ではどんな取り組みをしているの?
脱炭素社会とは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出をゼロにする社会のことです。
脱炭素社会は、2010年10月、菅義偉元首相が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と所信表明演説において述べたことで、注目されるようになりました。
2050年までの達成目標とされたのは、2015年に行われた国際的な温暖化対策の枠組みであるパリ協定が理由です。パリ協定では、地球温暖化を抑えるために、2050年までに脱炭素を進めることを世界各国に求めています。
温室効果ガスには複数の種類があり、二酸化炭素(CO2)やメタン・一酸化二窒素などが代表例です。
ただし、日本における「脱炭素」の取り組みは、温室効果ガス排出量の約9割以上を占める二酸化炭素の削減に向けた対策が中心となります。
なお、2025年の目標にもあるカーボンニュートラルは、温室効果ガス排出量を「実質」ゼロにすることを意味しており、温室効果ガスの排出が完全にない状態を指すのではないことがポイントです。
たとえ二酸化炭素が排出されていても、それと同量の二酸化炭素の回収や削減があれば、実質的に二酸化炭素の排出量はゼロとみなします。
具体例を挙げると、以下のとおりです。
①自動車を利用して二酸化炭素を排出した
②資源の再利用や植林などによって二酸化炭素の削減や回収分がある
③①と②で排出量が差し引きされ、二酸化炭素の排出量は実質ゼロとみなされる
このように、温室効果ガスの排出量と回収・削減量が釣り合っていれば、排出量は実質ゼロとみなす考え方のことを、カーボンニュートラルといいます。
カーボンニュートラルについて、詳しくはカーボンニュートラルとは?意味をわかりやすく簡単に解説 をご覧ください。
脱炭素社会の実現には、このカーボンニュートラルの達成が不可欠で、後ほど詳しく説明しますが、現在さまざまな自治体や企業が取り組んでいます。
脱炭素社会の実現が求められるのは、地球温暖化や気候変動の影響が深刻化しているため、温室効果ガスの排出量を確実に減らしていく必要があるからです。
すでに地球温暖化による悪影響は、酷暑や異常気象、海面上昇などさまざまな形で発生しています。
このまま放置すれば、
・海水面が上昇し、陸地が減り、砂漠化が進行し気候難民が増加する
・生態系が破壊され獣害被害が増える
・今まで取れていた魚や農作物が収穫できなくなる
・水資源などが枯渇し地域紛争が増える
・感染症を伝播する蚊が越冬して疫病が増える
など、さらに多くの問題を引き起こすでしょう。
このような状況を重く見て、2021年12月に英国・グラスゴーで開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)では、パリ協定を踏まえ「産業革命以前(1850-1900年)に比べた気温の上昇幅を1.5℃に抑えること」を目標とし、すべての国が合意しました。
また、脱炭素社会の実現が目指される背景には、石油や石炭といった化石燃料をはじめとする天然資源の枯渇が問題視されていることも挙げられます。脱炭素を進めれば、化石燃料をエネルギーとして使う機会も減らせるので、資源の浪費を抑えることができるからです。
その他にも、今知っておくべき環境問題については、環境問題とは?いま起こっている主な問題と私たちにできること をご覧ください。
脱炭素社会と似た言葉に、低炭素社会があります。両者の違いは「どの程度の二酸化炭素削減を目標とするか」にあります。より厳しい目標で二酸化炭素を削減するのが、脱炭素社会です。
低炭素社会は、二酸化炭素の排出が少ない社会を目指すものであり、地球温暖化の進行を緩やかにすることを目的としています。
パリ協定が結ばれ、2018年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「1.5℃特別報告書」を発行する前は、低炭素社会の実現が掲げられていました。
しかし、「1.5℃特別報告書」によって、パリ協定の主目的である2℃上昇(=2100年ごろまでに排出量「実質ゼロ」)でも気候変動の影響は深刻なことが明らかになり、現在ではさらに厳しい目標として、2050年までに排出量「実質ゼロ」を目指す脱炭素社会の実現が掲げられています。
脱炭素社会を実現するには、化石燃料頼りのエネルギー供給や、物流業界の脱炭素化の遅れなど、解決すべき大きな課題があります。
脱炭素社会を実現する上で、特に解決すべき重要な課題は、以下の2つです。
化石燃料でエネルギーを賄っている |
|
---|---|
物流業界の脱炭素化が滞っている |
|
それぞれどういうことなのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
日本では、発電用などのエネルギーの多くを、二酸化炭素排出の原因となる化石燃料で賄っている状況です。さらに、化石燃料などのエネルギー資源はほぼ海外からの輸入に頼っており、財務省の発表によると2022年の貿易額は33.5兆円でした(貿易赤字は20兆円)。
経済産業省によると、日本の発電量の72.9%は火力発電です。
火力発電は、石油や石炭・液化天然ガスなどの化石燃料を燃やすことで発電を行います。そのため、発電するだけで多くの温室効果ガスを排出してしまうのです。
対策として再生可能エネルギーの利用を推進していますが、それでも、現状の太陽光発電の割合は約9%、水力発電の割合は約8%にとどまっています。
今後、再生可能エネルギーへの転換が求められていますが、供給の安定性やコストの面で課題が残っているのが実情です。
再生可能エネルギーについて詳しくは 再生可能エネルギーとは?特徴や種類などわかりやすく解説 をご覧ください。
物流業界に代表される運輸部門は、車両などの利用が多いため二酸化炭素の排出量が多くなっていますが、脱炭素化は思うように進んでいません。
環境省によると、自家用車の利用を含む運輸部門は、エネルギー起源二酸化炭素の排出量のうち18%をも占めています。
脱炭素化が進まない要因の1つが、ECサイトの利用拡大です。個人が通信販売を多く利用すると、少量の商品を頻繁に配送する必要があります。すると積載効率が低下し、その分運搬による二酸化炭素の排出量も増加してしまうからです。
脱炭素社会を実現するには、輸送の効率化を実施する必要があるといえるでしょう。
脱炭素社会実現に向けては、EVインフラの普及やカーボンプライシングなど世界や日本で、さまざまな取り組みを行っています。
世界での取り組み |
|
---|---|
日本での取り組み |
|
ここでは、各取り組み内容について、もう少し詳しく説明していきます。
世界中のさまざまな国・地域で、脱炭素社会に向けた取り組みや政策が行われています。ここでは、イギリス・ドイツ・アメリカ・中国の例を見てみましょう。
イギリス
イギリスでは、2020年に「グリーン産業革命」を発表し、洋上風力発電の推進や環境負荷の低い建物の建設などに取り組んでいます。また、雇用を創出しながら、脱炭素に向けた取り組みを行っています。
ドイツ
ドイツでは、脱炭素社会を実現する法整備を実施し、陸上風力発電のための設備を設置できる面積を拡大しています。また、商業用施設などの新築時に太陽光パネルの設置を義務化するなど、特に再生可能エネルギーの活用に力を入れています。
アメリカ
アメリカでは2021年にEV(Electric Vehicle:電気自動車)インフラと電気バスなどに、それぞれ75億ドルの投資を実施しました。ほかにも運輸部門への対策に力を入れています。
中国
中国では、新エネルギー車※向けの補助金を設置しました。電動車市場の拡大に向けて力を入れている状況です。
※中国におけるEV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)の総称
日本では、先述した2050年カーボンニュートラルの実現のために2030年度の温室効果ガス排出量を、2013年度と比べて46%削減することを目標に取り組みを行っています。主な取り組みの例を見てみましょう。
カーボンプライシングの導入
カーボンプライシングは、二酸化炭素の排出量に価格を付け、企業など排出量応じた負担金を課したり、削減分を取引したりできる制度です。主な例で炭素税や国内での排出量取引などが挙げられます。
革新的環境イノベーション戦略
2020年に策定された、金属の高効率リサイクル技術、高性能蓄電池などの開発といった技術革新に力を入れる施策です。
二国間クレジット制度を実施
二国間クレジット制度は、発展途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組む制度です。途上国へ脱炭素に役立つ技術支援を行い、二酸化炭素の排出削減に貢献した分をクレジットとして取引することで、削減の成果を両国で分け合うことができます。
デコ活を推進
デコ活とは、2023年に発足された消費者や国民一人ひとりが参画できる運動のことです。省エネや食品ロスの削減など国民・消費者の脱炭素につながる新しい暮らしを国や自治体のほか、さまざまな企業が後押ししています。
住宅・ビルでの対策
省エネにつながる高断熱高気密住宅や、太陽光発電や省エネ設備の導入、高断熱素材の利用により、消費エネルギーよりも生産エネルギーが上回る住宅(ZEH:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)や建物(ZEB:ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を推進しています。
日本企業では脱炭素社会の実現に向けて、技術開発や省エネ設備の導入・再エネ化率の向上など、さまざまな取り組みを行っています。
ここでは、東京ガス・ローソン・楽天グループの取り組み事例を紹介します。
東京ガスで取り組んでいるのは、エネルギーの安定供給と脱炭素化の両立です。取り組み内容は、2030年までと、それ以降で異なります。
2030年までは、化石燃料の中では二酸化炭素排出量の少ない天然ガスを利用することで、二酸化炭素削減を目指します。それとともに、e-methane※や水素、バイオ由来エネルギーの技術開発を進めるのがポイントです。
※e-methaneは水素と二酸化炭素を合成して生成されるメタンのことで、合成時の二酸化炭素削減量と燃焼により排出される二酸化炭素が相殺できます。
そして、2030年以降は、e-methaneの導入量増加や再生エネルギー利用の拡大を目指します。
ローソンでは、2025年までに「1店舗当たりのCO2排出量2013年対比15%削減」を、2030年までに「同50%削減」を目標として、取り組みを進めています。
具体的には、ノンフロン(フロンを使用しない冷媒ガス)で省エネタイプの要冷機器や、太陽光発電といった再生可能エネルギーの設備などを導入し、環境負荷を抑えた店舗づくりを行っているのが特徴です。
70を超える多様なサービスを提供する楽天グループ株式会社はグループを横断して環境問題への取り組みを行っています。
2019年12月には、「Renewable Electricity 100%」を意味する国際的イニシアチブ「RE100」に加盟し、2021年から継続的に楽天グループ株式会社の事業活動に使用する電力の100%を再生エネルギーにする目標を達成しています。
そして、2023年度の連結子会社を含めた楽天グループ全体の事業活動における温室効果ガス排出量(スコープ1+2)(※1) を実質ゼロにする(※2)、カーボンニュートラルを達成しました。
その翌年の2024年には、自社の事業活動による温室効果ガス排出量(スコープ1、2)のみならず、取引先や協力企業を含むサプライチェーン全体における温室効果ガス排出量(スコープ3)にもスコープを広げた新たな温室効果ガス排出量の削減目標(下図)を発表しました。その内容は、国際的気候変動イニシアチブ「SBTi(Science Based Targets initiative)(※3)」によるSBT認定を取得しました。
スコープ1 排出量 |
自らによる温室効果ガスの直接排出量 |
|
---|---|---|
スコープ2 排出量 |
他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出量 | |
スコープ3 排出量 |
スコープ1・スコープ2以外の 間接排出量 |
|
これにより、楽天の温室効果ガスの排出に関する削減目標が、パリ協定における「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃未満に抑える」ための科学的な根拠に基づいていることが認定されました。
(※1) 温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)の排出量を算定・報告する際の国際的な基準である「GHGプロトコル」に沿って算出・第三者保証を取得した、 スコープ 1排出量(自らによる温室効果ガスの直接排出量)とスコープ 2排出量(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出量)の合計。
(※2) 温室効果ガス排出量削減に向け、グループ横断で省エネルギー化・再生可能エネルギー導入に取り組み、そのうえで削減しきれない温室効果ガス発生量については、削減活動に投資するカーボン・オフセットを実施し相殺しています。
(※3) SBTiは、国連グローバル・コンパクト、CDP(気候変動対策などに取り組む国際NGO)、WRI(世界資源研究所)およびWWF(世界自然保護基金)が共同で設立した国際的な気候変動イニシアチブ
脱炭素社会実現のために、私たちが気軽にできる取り組みには、節電や再生可能エネルギーの利用などさまざまなものがあります。
・節電・節水を心がける
・太陽光や太陽熱、地中熱を設置する/健康に良い断熱効果の高い住宅に改修・新築する
・持っている服は可能な限り長く着る
・電動車や再生可能エネルギーを利用
・宅配便の再配達を減らす
発電時に二酸化炭素が排出されるので、節電は脱炭素社会の実現に効果的です。また、水をろ過し殺菌するのに多くのエネルギーを使うため、節水も脱炭素化に貢献できます。
節電の例 |
|
---|---|
節水の例 |
|
節電のサポートとして、楽天でんきでは 節電トライ という企画を行っています。電力のピークシフトやピークカットを組み合わせ節電することでお得なポイントがもらえます。
ごみを減らすことで、ごみ処理時に発生する二酸化炭素を減らせます。流行に左右されないデザインや素材にこだわった服を選び、長く着用して、ごみを減らしましょう。
また、地球環境に配慮したサステナブルファッションを選ぶことも持続可能な社会の実現のために効果的です。楽天の EARTH MALL with Rakuten でも取り扱っていますので、服選びの参考にしてみてください。
サステナブルファッションについて詳しくは サステナブルファッションとは?業界の問題や私たちにできること をご覧ください。
さらに、着なくなった服はフリマアプリや古着屋で売却したり、古着を購入したりすることによって、限りある資源を未来につなげ、循環型社会の実現に貢献できます。 楽天ラクマ を利用すれば、インターネット経由で簡単に手間なく古着の売買が可能です。
ガソリン車ではなく、電動自動車やハイブリッドカーなどのエコカーを利用することで、二酸化炭素の排出を抑えることができます。
最近ではエコカーをレンタルするサービスもあり、ちょっとしたお出かけや旅行などで気軽にエコカーを利用することができます。
また、太陽光発電に代表される二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーを使えば、二酸化炭素の排出や資源の枯渇を防ぐことが可能です。再生可能エネルギーを利用した電力会社への切り替えを検討してみましょう。
ECサイトの拡大に伴い再配達が増加し、配送トラックの移動などで、排出される二酸化炭素は年間42万トンにものぼります。
そのため、再配達を減らすことで、二酸化炭素の排出削減に貢献することが可能です。以下のような方法で再配達は減らせます。
・メールやアプリに届く配達時間を確認して、1回で受け取るようにする
・コンビニ受け取りや、置き配・宅配ロッカーへの配達を利用する
例えば、楽天グループでは、楽天市場での購入品の配送状況やお届け日時を確認できたり、自宅外受け取りを可能にしたりすることで再配達を減らす取り組みを推進しています。(※ショップや商品によっては指定できない場合があります)詳しくは 【楽天市場】再配達をへらそう をご覧ください。
今回は、脱炭素社会の意味や国・企業の取り組み、個人でできる取り組みなどを紹介しました。
脱炭素社会とは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にする社会のことです。地球温暖化や気候変動の影響が深刻化しているため、実現が求められています。
脱炭素社会実現のためには、節電・節水・古着の活用・エコカー利用・再配達を減らすこと、さらには家や建物での再エネ導入や高断熱高気密化を進め普段は快適で災害時も安心な環境づくりを進めるなど、私たちができる取り組みがたくさんあります。今日からでも、できることに挑戦してみましょう。
東京大学大学院工学系研究科博士学位取得。国立研究開発法人主任研究員などを経て、2019年度よりIGES専任。日本低炭素社会研究プロジェクト(2004年~2008年)やアジア低炭素社会研究プロジェクトの幹事(2009年~2013年度)として携わり、中央環境審議会地球環境部会中長期ロードマップ小委員会専門委員として、2050年までに二酸化炭素排出量を大幅削減する「低炭素社会」のシナリオ作りに携わった。気候変動のCOPには2005年(COP11)から継続して参加。