1997年の創業から25年。この楽天の歴史はユーザーのみなさん、出店者の方々とともに歩んできた軌跡です。縁のある方々に楽天の思い出をお聞きする企画、今回は、楽天市場でいち早く工具専門のショップを作り、DIYという言葉がまだほとんど知られていなかった時代からその普及に努めてきた、株式会社大都の3代目、山田 岳人さんに、これまでの歩みや、今後の夢をうかがいました。
知識ゼロの状態から、
卸売業からネット小売業へ業態転換に挑戦。
楽天: 楽天は今年で25周年なのですが、25年前は山田さんは何をされていた時期ですか?
山田 岳人: ちょうど前職から、大都(老舗の工具卸売会社)に転職してきた年です。その前の年に大都の先代の一人娘と結婚したのが、私の人生のターニングポイントでした。結婚のあいさつに行くと「後継者になってほしい」と頼まれたんです。業界について知識はまったくありませんでしたが、もともと起業志向でしたし、その場で首を縦に振りました。
楽天: その頃は卸売業をされていたのですよね。大都に入社されてから楽天市場に出店されるまでにはどんな経緯があったのですか?
山田 岳人: その頃はすでに「卸売業」というビジネスモデル自体に陰りが生じており、業績もなかなか厳しく暗中模索の日々の中、これまでの卸売業から小売りへの業態転換を検討しました。
楽天: なるほど、小売りの新形態としてネット販売、そして楽天と出会われたわけですね?
山田 岳人: その通りです。2001年の年末、同級生と忘年会をしている時に、友人のひとりから「これからはネット通販の時代が来る」と聞いたのが、すべてのはじまりでした。翌日早速、パソコンを買いに行ったのですが、知識ゼロの状態で、何から手を付けていいかわかりません。調べていく中で楽天について知り、説明会に参加し、「知識がなくともお店を出せる」ということで楽天大学に通い出して、2002年7月に何とか出店までこぎつけました。
初めてのお客様は福島の方。
大阪の会社が福島の人と商売できるのかと
心底胸がわくわくした。
楽天: 初めて出品した商品はなんでしたか?
山田 岳人: 「マイペン」という電熱ペンです。これは主に、木を焦がして絵や模様を焼き付けるウッドバーニングの技法に使うもので、一般的にはあまり知られていないかもしれません。
楽天: 私も初めて耳にしました。なかなかニッチな商品だと思うのですが、なぜ電熱ペンを出品しようと思ったのでしょうか?
山田 岳人: もともと当社で、ホームセンターに卸していた商品だったんですが、取り扱っている店舗が少なかったというのが理由のひとつです。ネット販売黎明期であった当時は、店舗にあるものはそこで買い、ないものをネットで探すというお客様の買い物の流れがありました。したがって、店舗にあるのは珍しいけれど、一定数売れている商品を選ぶというのをひとつの基準に据え、マイペンは条件を満たしていました。ちなみに最初に売れた商品は、今でも覚えています。3万円の暗視スコープで、福島県の人が買ってくれました。「大阪の会社が、何の営業もかけずに福島の人と商売ができるのか」と心底驚き、わくわくしましたね。
楽天: リアルで行けない場所でも、世界中のお店でお買い物ができるのはネットショップの大きな面白さのひとつですね。当時のショップ運営は、お一人でされていたのですか?
山田 岳人: はい。月商100万円までは自分だけでがんばると決め、主に夜に注文処理や出荷などをこなしていました。忙しい時はまともに家に帰れずなかなか大変でしたが、夢がある仕事だと感じていたので、モチベーションは高かったです。注文が少しずつ増え、1年半でその目標は達成できました。そこでようやく、パソコンが得意な社員を専属で雇ったのですが、それでショップの質が一気に上がりました。注文に素早く対応して出荷ができるようになり、お客様とのコミュニケーションも取れはじめ、「もっと早く人を入れればよかった」と後悔しました。以来、積極的に人を採用しています。
日本にDIY文化を広げ、
自分らしい暮らしをつくる人を増やしたい。
楽天: お店が軌道に乗ってから、ターニングポイントとなった出来事はありますか?
山田 岳人: 2007年に、バラエティストアから工具専門ショップへと舵を切ったのが、ひとつの転換期でした。それまでは商品のラインナップをどんどん増やして、工具だけでなく加湿器から折り畳み自転車まで扱うバラエティストアといった感じでした。そういった業態の競合がたくさん出てきていたことに危機感を抱き、母体が工具の卸売業という自社ならではの強みを出すべく、工具専門店にシフトしました。ネットショップが増えていく中でいかに個性を出すかは、大きな課題でした。
楽天: 数あるショップの中、お客様に選ばれるような個性を持つというのは、多くのショップの課題だと思います。
山田 岳人: それで私は、圧倒的な商品数を持つことで、他ショップとの差別化を図ろうと考えました。当時の取り扱いアイテム数は1万8000点で、すでに日本最大級でしたが、卸問屋として持っていたデータは10万アイテム分あったので、そのすべてを登録することを目指し、なんとか実現しました。
楽天: 10万アイテム!すごいですね。
山田 岳人: そうして差別化がうまく進んだこともあり、2010年から売上げがどんどん増えていったのは良かったのですが、それに対応する体制ができておらず、社員たちと朝から晩まで働きづめになりました。家にも帰れず、夜遅くまで梱包作業をする日々の中、「自分たちは一体、なんのためにこの作業をしているのか」と自問自答するようになりました。
楽天: 事業のボトルネックが、売り上げからバックヤードへと移ったわけですね。急成長したからこその、難しい悩みです。
山田 岳人: はい。しかしこれをきっかけに、自社の存在意義と深く向き合い、考えに考えた結果ようやくたどり着いたのが現在の会社のミッション「ハッピートライアングル」でした。素晴らしい技術と熱意で商品をつくる人がいる。その商品を必要な人に届けようとする人がいる。そして、自分らしい暮らしのために、その商品を使って何かをつくる人がいる。そうして関わる三者すべてが幸せになる。私たちが見たいのはそんな景色だと定義してからは迷いが吹っ切れました。
楽天: 目指すべき場所がわかったのですね。
山田 岳人: そうです。まずは自社を、DIY領域で日本一の会社にする。そして、日本にDIY文化を広げ、自分らしい暮らしをつくる人を増やし、「らしさ」があふれる世界をつくる。それが私の現在の夢であり、目標です。振り返れば、ご縁があって関わるようになった工具の卸売事業ですが、実は最初は大嫌いでした。正直言って、会社を辞めたかった。儲からないだけでなく、夢が持てなかったのです。でも、その事業を好きになれたのは、自分が生涯をかけてすべきことがわかったから。今は、生まれ変わってもまた工具屋をやりたいと思っています。
やまだ・たかひと/1969年石川県生まれ。大学卒業後にリクルートに入社、6年間の人材採用の営業を経た後、大都へ入社。2011年に代表取締役に就任。楽天市場では、「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー DIY部門大賞受賞」などの受賞歴がある。2014年には体験型DIYショップ「DIY FACTORY OSAKA」(現在は閉店)をオープンするなど、DIYを世に広めるべく、尽力し続けている。
DIY FACTORYで最初に出品された、ペン先が高温になる道具。木や革などを焦がして、文字や絵・文様などの装飾を施す時に用います。1~10の目盛りで温調が可能で、焦げ目の濃淡も自由自在。オリジナルグッズをつくるのに便利な一品。
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