横浜チョコレートのバニラビーンズ代表取締役社長の八木 克尚さん
八木 克尚
横浜チョコレートのバニラビーンズ|代表取締役社長
2022.06.01
#THANKS

顔が見えないネットショップだからこそ、
一人ひとりとコミュニケーションをとる接客を。

1997年の創業から25年。この楽天の歴史はユーザーのみなさん、出店者の方々とともに歩んできた軌跡です。楽天の「履歴」を振り返りながら、ご自分の人生を振り返っていただく本企画、今回ご登場いただくのは、ネット販売の黎明期にチョコレート専門店を立ち上げ、楽天市場とともに成長してきたチョコレートデザイン株式会社の創業者、八木 克尚さん。これまでの歩みと、これからの展望をうかがいました。

実家に建てた2坪の工場が
すべての始まりだった。

バニラビーンズのチョコレート

楽天: 2000年の創業と同時に、楽天市場へ出店されていますね。最初に出品した商品は何でしたか?

八木 克尚: 生チョコレートです。私はもともとパティシエで、自分の店を持つことを目標にしていました。しかし見習いのパティシエのハードな仕事環境のままではいつまで経っても自分の店など開けないだろうと感じていたところ、偶然テレビで楽天市場を知り、これなら少ない資金で自分の店を持てるじゃないか。そう考えたのが、ひとつのきっかけでした。
当時、自分で用意できる生産設備は小規模で、つくれるものが限られていた中で、最も自信のあったのが生チョコレートでした。また、街のお菓子屋さんにはあまり置いていない商品を取り扱おうという思惑もありました。

楽天: 商品開発も手探りだったと想像しますが、どのように行ったのでしょう?

八木 克尚: 実家の敷地内で2坪の土地を借り、プレハブ小屋を建てて、そこで試行錯誤していました。昼は大手菓子メーカーに勤めていたので、夜な夜なチョコレートづくりをする日々です。完成まで2か月ほどかかりました。

楽天: いざ出店してみて、手ごたえはどうでしたか?

八木 克尚: 実は、楽天市場で商品を出品する前に、試しに他のオークションサイトに商品を出してみたところ、用意した10セットがすぐに売り切れたんです。そして楽天市場でも最初からそこそこ売れたので、割と早い段階で、これは商売として成り立つんじゃないかと思いましたね。ただ、出店してしばらくは、体力的にきつい時期で、商品が売れるほどしんどかった記憶があります。昼間は会社員をやり、夜7時くらいからは実家で商品をつくって梱包し、発送や翌日の出荷準備まで全部ひとりでこなしていました。それが半年くらい続いて、売り上げもそれなりに伸びてきたところで昼の仕事を辞め、楽天市場に専念することにしたんです。

楽天: 楽天市場に専念したことで完全に独立したのですね。最初はどんなことを考えながら店舗運営をされていましたか?

八木 克尚: 何のブランド力もないところからスタートしたので、まずはとにかくお客様を喜ばせ、ファンを増やしていこうと考えていました。対面することのないネットショップだからこそ、お客様一人ひとりに対し、気持ちを込めて商品をつくっていましたし、一人ひとりとコミュニケーションをとるようにしていました。メールのやり取りを何度もするうちに互いの人柄が伝わったり、常連のお客様とそれなりに親しいやり取りができたりする中で、「こんな本格的なチョコレートは近所では買えない」「家族にあげたら喜んでくれた」というような喜びの声がもらえ、それが支えになりました。

お客様一人ひとりの気持ちに寄り添う
「1分の1接客」

楽天市場との関わりについて語る八木さん

楽天: 創業から4年、5年と経ち、売上げが少しずつ伸びていきました。

八木 克尚: その頃の思い出では、2004年ごろについてくれた当社担当のECコンサルタントのことが印象に残っています。すごく熱量のある人で、毎日のように電話をかけてきてくれました。その頃は正直「忙しいのに、なんだよ」と思っていましたが(笑)。「お試し用の商品を作ってはどうか」「このタイミングでイベントを仕掛けましょう」などといろいろな提案をしてくれて、それを実践してみると実際に売上げが伸びるし、人間としてもきちんとしていて、信頼できました。

楽天: その頃のエピソードで、今も影響を受けていることはありますか?

八木 克尚: 夜、事務所の電話で担当者と話していた時、僕が何気なく、お客様のことを「客」と言ってしまったんですね。するとその瞬間、彼に「八木さん、客じゃなくて、お客様でしょう」とたしなめられました。そこで私ははっとしました。いつの間にか、お客様と自分との距離が遠くなっている……そして、思い出したんです。2坪の工場で、心を込めて商品を梱包していた頃の自分を。お客様の顔が見えないネットショップだからこそ、接客を大切にしなければならない。彼の一言で、その原点に立ち返ることができました。自分にとっては100人いるお客様のひとりであっても、お客様にとっては、自ら選んだたった一つのショップです。以来私は、お客様一人ひとりの気持ちに寄り添う「1分の1接客」を社の行動規範と定め、現在でも大切にしています。

フェアトレードチョコレートで
食べる人も、原産国の人も幸せにしたい。

Ghana Next Smile Projectで完成した学校

楽天: これまでの歩みの中で、転機となった出来事はありますか?

八木 克尚: 2006年に、大きな転機がありました。そのきっかけは、チョコレートの原料となるカカオ豆の収穫を、原産国の貧しい子どもたちが行っているところがあると知ったことでした。子どもたちは、学校にも行けずに家族のために働き、チョコレートなど食べたこともありません。そんな現実を、つくり手側から少しでも変えたい。食べる人も、原産国の人も幸せでいられるような仕組みができないか…。そう考えるようになりました。そして2007年から導入したのが、フェアトレードのチョコレートの導入でした。

楽天: 素晴らしい経験ですね。でも、フェアトレードチョコレートの導入は簡単ではなかったのではないでしょうか。

八木 克尚: はい。従来のものからフェアトレード認証のものに変更しようとすると、仕入れ値がそれまでの3倍から5倍になるため、商品全体の値上げをせざるを得ません。それをどこまでお客様に受け入れてもらえるか、不安はありました。しかし、メルマガなどを通じてお客様に、値上げの背景や自分の思いを伝えていったところ、「応援します」というコメントがたくさんもらえて、自分が進もうとしている道はきっと正しいと思えました。そこからフェアトレードチョコレートを使う割合をどんどん増やしていき、現在はほとんどすべてがそれに置き換わっています。

楽天: 2008年には、当時あった「楽天オークション」でチャリティーイベントを開催されていますね。

八木 克尚: 目的は、カカオ原産国の子どもたちが通える学校をつくることでした。チョコレートの生産過程で必ず出てくる、あまりや、割れたり欠けたりした商品をB級品として割安で出品し、落札価格の9割を積み立てていきました。2008年から7年かけて390回ものオークションを行い、2015年5月についに学校が完成したときには、本当に感無量でした。お客様と共に長い道のりを歩み、ひとつのプロジェクトを完成させたこの経験は、自分の人生の中でも大きな出来事でしたね。自社もお客様も損をしないモデルをうまくつくれたことが、7年間持続できたひとつのポイントだったように思います。

楽天: そうした理念や、お客様を大切にする姿勢もまた高く評価され、人気につながっていると感じます。八木さんがこれから挑戦したいことはなんでしょうか?

八木 克尚: チョコレートで世界を幸せにする。それが私たちの目指すところです。その実現のため、目標のひとつに据えているのが、フェアトレードチョコレートを年間で1000トン使用するというものです。現在は使用量が100トンを越えるところまできたので、次は1000トンをクリアしたいです。楽天さんとは、これからも二人三脚で進んでいき、より多くのお客様に私たちのチョコレートを届けていければと思います。

八木さんのプロフィール写真
プロフィール

やぎ・かつひさ/1976年横浜市生まれ。製菓学校卒業後フランスで修行を積み、帰国後、日本の大手製菓メーカーに勤務。23歳で独立を決心し、2000年4月楽天市場にバニラビーンズをオープン。楽天市場では「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー スイーツ大賞」など数々の賞を受賞。2014年には、リアル店舗としてVANILLABEANS みなとみらい本店をオープンし、横浜を中心に複数店舗を運営。現在は日本初上陸のロースターを導入し豆の焙煎に特化したロースタリーをつくるなど、カカオの新たな可能性を追求している。

生チョコレートのイラスト
思い出の楽天出品履歴
生チョコレート

実家に建てた2坪のプレハブ工場で2ヶ月かけて商品開発し、初めて出品した思い出の商品。生産から梱包、出荷や翌日の在庫手配まで全部ひとりでやっていた、バニラビーンズの原点とも言える一品。


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