1997年の創業から25年。この楽天の歴史はユーザーのみなさん、出店者の方々とともに歩んできた軌跡です。縁のある方々に楽天の思い出をお聞きする企画、今回は〈よなよなエール〉の製造、販売を手がけ日本のクラフトビールブームを牽引してきた株式会社ヤッホーブルーイング(以下、ヤッホーブルーイング)社長の井手 直行さん。楽天と同じく1997年に創業したヤッホーブルーイングで、創業時から営業担当として働いていました。決して順風満帆ではなかったこれまでの道のりですが、楽天と一緒に苦難を乗り越えてきた歴史があります。
楽天と同い年、
1997年創業のヤッホーブルーイング。
楽天: ヤッホーブルーイングと楽天は、同じ1997年創業ですね。
井手 直行: はい。星野リゾートの代表である星野佳路が1996年に設立し、97年からビールの製造を始めました。楽天市場の開設が97年5月ですよね。当社の楽天出店は早く、98年からお店を出していました。
楽天: かなり初期からのお付き合いですよね。井手さんは、その頃からインターネット販売に携わっていたのですか?
井手 直行: 私は営業担当で、インターネット販売には関わっていませんでした。代表だった星野が意欲的だったんです。私らがクラフトビールの製造をはじめると知った、当時楽天の営業担当だった小林正忠さんが営業に来てきてくれたそうです。星野はすぐに出店を決めました。実は私は、インターネットのことはよくわからず興味もなかった。星野の先見の明だと思います。
楽天: 井手さんは、ネット販売についてどう思っていたんですか?
井手 直行: その頃は地ビールブームの真っ最中で、97年の7月に発売した〈よなよなエール〉が爆発的に売れていた時期。スーパーや酒店でたくさん売れているのに、わざわざネットで販売する必要なんてないと当時の私は考えていました。自分があちこちに足を運んで営業しているなか、ネットの担当者は机でパソコンに向かってなにかしている。「こっちは忙しいんだから、遊んでいないで手伝え」なんて思っていました。
楽天: (笑)
井手 直行: しかし地ビールブームも終わり、99年くらいをピークに地ビール業界全体の売り上げが下がり始めました。当社も赤字が続き、人がどんどん辞めていく。楽天市場を担当していた従業員も辞めて、楽天のお店は担当者がいないまま長らく放置されていました。
楽天: 井手さんがインターネット販売を担当しはじめたのはいつからですか?
井手 直行: 2004年からです。その頃にはビールは全く売れなくなってしまい、酒店もスーパーもどこも製品を扱ってくれない。しょうがなく開店休業状態だった楽天市場店をなんとかしようとネット販売に向き合いました。そこではじめて知ったことは、全然売れなくなったと思っていた〈よなよなエール〉が、実はネットではそこそこ売れていたんです。
楽天: 当時ネットでビールを買うお客様は、どんな方だったんですか?
井手 直行: 旅行や仕事などで軽井沢を訪れ、〈よなよなエール〉を飲んでおいしいと思ってくれた方が、地元に帰ったときにまた飲みたいと思っても長野県以外では売っていない。そこでインターネットで検索してみたら、楽天市場で販売しているので買ってくれたというパターンが多いようです。
製品を売るだけではなく、
お客さまを楽しませるサイトづくり。
楽天: インターネット販売では、どんな戦略を立てたのですか?
井手 直行: 最初は何をしたらいいのか、思いつきもしませんでした。何もわからず立ち尽くす私を見かねた楽天の当社担当の方が「楽天大学に行きましょう」と、とても熱心に誘ってくださいました。楽天は同じ年に仕事を始めた、いわば同期なのに片やものすごい勢いで成長していて、こちらは潰れそうな会社。インターネットというものを疑ってバカにしていたことを反省し、ここは心を入れ替え楽天にすがるしかないという気持ちで、言われた通りになんでもやろうと思い六本木ヒルズにあった楽天のオフィスに毎週通って、楽天大学の基礎講座を受けました。
楽天: 楽天大学ではどんなことを学んだのですか?
井手 直行: トップページの作り方や、メールマガジンの書き方を学びました。教わったことを実践して製品の魅力が伝わるようなお店づくりをしようと商品ページをつくり、ドキドキしながらメールマガジンを書きました。そのときに楽天で教わった「Shopping is Entertainment!」(ショッピングはエンターテインメント)という言葉を参考に、なにか楽しいことをしようと思いついたんです。例えば「よなよなエール写真展」という企画。どこか旅行に行ったときに、〈よなよなエール〉をお供として持っていってもらい一緒に写真を撮って送ってくださいと募集。多くのファンの人が、面白いシチュエーションでたくさんの写真を送ってくれたので、「驚いたで賞」、「感動しましたで賞」など勝手にいろんな賞をつくってサイトに掲載しました。結果的に「面白いことをやっているな」とページを訪れてくれた人たちが、〈よなよなエール〉を飲みたくなったと言って注文してくれるように。これこそが「ショッピングはエンターテインメント」だと実感する機会になり、この考えをひたすら実践していました。
楽天: 商品の受注などの業務の他に、イベントも企画していたんですね。大変だったのではないでしょうか?
井手 直行: その頃、商品は〈よなよなエール〉1点だけで出店していたんです。そのおかげで、いろんな企画に注力できたのですが商品の少なさに悩んでいたことも事実。楽天大学でも扱うアイテム数は多い方がいいと教わりました。しかし当社では〈よなよなエール〉と、〈軽井沢高原ビール〉2ブランド、3種類のビールしか製造しておらず、〈軽井沢高原ビール〉は軽井沢限定のご当地ビールだったので、〈よなよなエール〉だけをネット販売していたんです。楽天の担当の方や楽天大学の講師の方に教わったのは、1点の商品でも10本セット、15本セットといったギフトセットをつくることはできるということ。他にも送料無料でお試し2本セット500円などの販売もしました。形を変えることでアイテム数を増やし、バラエティ豊かにする方法を教えていただきました。また父の日のプレゼント用に〈よなよなエール〉のギフトセットを発売もスタート。こちらも楽天からの提案で、何本かをセットにして包装し、メッセージカードをつけるギフト商品です。以前は父の日のプレゼントといえばネクタイなどが定番でしたが、ここから毎年父の日に〈よなよなエール〉を贈ってくれる人が増えました。このように楽天の方々は的確なアドバイスをくれたり、ときには企画ページの作成まで手伝ってくれたりしたこともあります。親身になって私たちのお店を一緒に盛り上げてくれたんです。
楽天: 今ではヤッホーブルーイングのお店はバラエティ豊かな製品が並んでいますね。ところで今回は「わたしの楽天履歴」という企画でお話を伺いにきたのですが、井手さんは出店者側ということで、出品商品の履歴をお聞かせください。〈よなよなエール〉以外で、思い出深いものでいうと、何になりますか?
井手 直行: まず一つ目は、2005年に、1本3,000円で売り出した長期熟成ビール「英国古酒」ですかね。そのビールは、売る機会を逃してしまいタンクで2年ほど寝かせていたもの。通常ビールは一ヶ月ほどで完成しますが、寝かせることで熟成され風味豊かになるバーレイワインという種類です。「奇跡のビール」というキャッチコピーで、メルマガで告知をして企画ページをつくったら1日もたたずに完売。200本限定で再販したら、またしてもすぐに完売。高価格のビールがこんなに早く売れることに驚きました。現在では同じように高価格で販売している〈ハレの日仙人〉というビールが人気製品です。二つ目は、全国向けレギュラー製品として2本目に売り出した〈東京ブラック〉という黒ビールですかね。そこから会社自体の製品もどんどん増えていき、現在のラインナップになりました。
目標にしていたショップ・オブ・ザ・イヤーの受賞
楽天: 右も左もわからなかったとおっしゃっていた井手さんですが、2007年にはショップ・オブ・ザ・イヤーを受賞されています。
井手 直行: 2005年の楽天の新春カンファレンスにはじめて参加して、気持ちが奮い立ったんです。ショップ・オブ・ザ・イヤーの受賞者が、そのカンファレンスで表彰されていました。壇上に上がる受賞店舗の方々を見て「自分もあの場所に立ちたい」と心から思いました。そこで目標を立てたんです。1年後に月収1千万のオレンジ店舗になる。2年後に楽天ドリームという楽天が発行している雑誌に載る。3年後にはあの壇上に登る。当時売り上げはほとんどありませんでしたが、私はすっかり感化されてしまった。目標を紙に書いて壁に貼っていたら、ほぼ全部実現しました。
楽天: 受賞後になにか変化はありましたか?
井手 直行: 他の店舗さんとコミュニケーションをとる機会が増え、高い志を持った店長さんたちと切磋琢磨するようになりました。目標に向けてお互いにアドバイスをしあったり、ノウハウを交換したり。そういう横のつながりができたことで、意識ややる気もどんどん向上していきました。そして、今まで営業をしても門前払いだったスーパーや酒店が、ネットで評判がいいビールがあるらしいと扱ってくれるようになったんです。
楽天: 2007年にショップ・オブ・ザ・イヤーを初受賞し、そこから10年連続で受賞します。受賞式での井手さんの仮装も話題になりましたね。
井手 直行: 授賞式には宇宙人の格好をしたり、小林幸子さんのような大掛かりな衣装を着たりして、毎年授賞式を盛り上げようとしていました。それも楽天のショップのページで「てんちょのショップ・オブ・ザ・イヤー珍道中」なんてコンテンツにして、ファンも楽しみにしてくれていたようです。
「Shopping is Entertainment!」の姿勢を貫く
ビールを中心としたエンターテインメント事業。
楽天: これから挑戦したい目標はありますか?
井手 直行: 日本のビール文化を変えたいと思っています。「とりあえずビール」なんていう言葉を使わなくなるといいなと思っています。
楽天: 具体的にいうと?
井手 直行: もっと気軽にクラフトビールを楽しむ人が増えて、「とりあえずビール」ではなく、「今日はよなよなエールにしようか、バーレイワインにしようか、黒ビールもいいな」。そんな風に、ビールをたくさんのバラエティのなかから選ぶ世界をつくりたいです。
楽天: ヤッホーブルーイングのミッション「ビールを通して人々を幸せにする」というのは、楽天の「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」というミッションとも共通している部分があると思います。
井手 直行: 私たちは当社のことを、ビール製造業ではなく、ビールを中心としたエンターテインメント事業と言っています。ビールを売るだけではなく、イベントやファンとの交流を通して幸せを感じる人を増やしていきたい。そんな輪が日本中、世界中へと広がっていったら、いつかノーベル平和賞が取れるんじゃないかと本気で思っています。
楽天: 壮大ですが、素晴らしい目標ですね。
井手 直行: 楽天に感化されて目標も壮大になっています。すべては楽天から学んだ「Shopping is Entertainment!」の精神が基盤。これからも楽しいイベントをどんどん企画していこうと思っていますので、楽天さんも変わらぬお付き合いをよろしくお願いします。
いで・なおゆき/1967年福岡県生まれ。電子機器メーカーや広告代理店を経て、97年ヤッホーブルーイングの創業時に営業担当として入社。2004年からはインターネットの担当になり、楽天市場での販売に注力するようになる。08年に代表取締役社長に就任。ニックネームは「てんちょ」。著書に『ぷしゅ よなよなエールがお世話になりますーくだらないけど面白い戦略で社員もファンもチームになった話』(東洋経済新報社)。
買い物はもっぱら楽天市場だという井手さん。日用品から、趣味のスノーボードのグッズまで購入している。楽天のスーパーSALEは欠かさずチェックしており、ワインを大量買いしたとのこと。
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