自動配送ロボットで買い物難民を救いたい!ロボットに人生を捧げる元官僚の挑戦

インターネットで買った商品がロボットで自宅まで配送される。楽天には、そんな未来を実現すべく日々奔走する部門があります。今回はその中でも、元官僚という経歴をもつ従業員に、楽天でロボット配送に取り組むことになったきっかけや、現在の仕事、そして思い描く未来について話を聞きました。

ロボットに夢中だった幼少期

――はじめに、楽天でロボット配送に取り組むことになった経緯を教えてください。

牛嶋: そもそもロボットに関心を抱くようになったのは小学生の頃でした。当時テレビで見たロボットコンテスト 「NHKロボコン」がきっかけです。自分たちで開発したロボットを用いて競い合う様子に憧れ、「ロボコンに出たい」という夢を持つようになりました。高校ではロボット工学部に入部し、ロボット作りに没頭する毎日を過ごしました。その後、東京大学の「RoboTech(ロボテック)」というロボコンサークルに所属し、念願の「NHKロボコン」の大会に出場。大学3年生の頃にはリーダーとしてチームを率いる立場になりました。

(左上・右上)高校時代に制作したロボット。(左下)「NHKロボコン」に向けて製作したロボット。
(右下)「NHKロボコン」出場時の写真。中央で看板を持つのが牛嶋

しかし、大会での優勝を目指していた中で、自分の納得のいく結果を出すことができず、「自分自身がロボットを作るよりも、日本の優秀なエンジニアが開発したロボットが社会で活躍するための支援をしよう」と思い、後にドローンやロボットの政策に関わることにもなる経済産業省に2012年に入省しました。

ロボットで新しい産業を生み出す。経産省時代のお仕事

――経済産業省ではどのようなお仕事をされていたのですか?

牛嶋: 大きな転機となったのは、2015年に経済産業省内でロボットの産業振興のために立ち上がったロボット政策室へと着任したことでした。入省当時の思いから、「自分にやらせてくれ!」と懇願したわけですが(笑)。

ロボット政策室では、ドローンや産業用ロボットなどを活用してどのような新しい産業を作れるか、人々の生活により近いサービスでロボットが活用される社会を作るにはどのようにしたら良いかといったことを日々考え、政策を推進していました。

――まさに天職だったわけですね。その後、楽天に入社されることになったと思いますが、どのような理由があったのでしょうか。

牛嶋: 経産省でロボットに携わっていると、ロボットを活用した様々なビジネスやサービスの相談を受けます。その際、取り組みのハードルとなっている規制があれば、それらの規制緩和に向けて他の省庁と交渉し、民間の方々がやろうとしている取り組みをサポートしていました。ところが、そうしたことをたくさん行っているうちに、サポートするだけではなく、自分で主体的にビジネスを考えて実現したいという想いが強くなり、転職を決意しました。

もうひとつ、当時主にドローンの政策に携わっていたのですが、「空を飛ぶロボットがあるならば、当然、陸を走るロボットもあるだろう」と街中を走るロボットの可能性を感じていました。そんな折に楽天が自動配送ロボットの新規事業をはじめるというニュースを見て、楽天の採用サイトを見たところ、ちょうど募集していたので応募しようと思い立ちました。

ちなみに経産省では、通常、色々な業界を担当しながらキャリアを積んでいきます。しかし、自分は「このままロボットの分野で働きたい」と思ったのも理由のひとつでした。

経産省時代の牛嶋

官僚から一転、ロボットを活用したサービス開発の現場へ

――ロボットに人生を捧げているかのようですね。楽天では、どのような業務をされているのでしょうか。

牛嶋: 現在はドローン・UGV(Unmanned Ground Vehicle)事業部で、ロボットが地上を走行して荷物を届けるサービスの開発を担当しています。

昨今「楽天市場」などインターネット・ショッピングの取扱量が増えていますが、それに伴って宅配量も増え続けています。ところが、日本では少子高齢化が進み、宅配の担い手が不足しています。また、公共交通機関の便が悪いような地域では、自家用車での移動が中心となるケースが多いですが、高齢になり自動車の運転が難しくなると、食料品や日用品の購入でさえも困難になります。そうした「買い物難民」の増加というのも大きな社会問題になっています。

今後インターネット・ショッピングでより多くの商品を、より多くの人々に届けられるようにするためには、無人化・省人化のためのドローンやロボットが必要になるんじゃないかと。そういった考えのもと、自動配送ロボットを活用した商品配送サービスの開発に取り組んでいます。

将来的には、「楽天市場」の商品配送はもちろん、飲食店や小売店からの配送であったり、ネットスーパーからの配送であったりも目指していきたいと考えています。現在は、スーパーからの商品配送に注力していて、2021年3~4月には、神奈川県横須賀市の西友店舗から、自動配送ロボットで住宅地へと商品を配送するサービスも約1カ月実施しました。

利用者の声を直接聞くことで、ビジネスが生まれる体験

――官僚から楽天へと転職し、ロボット活用における視点などに変化はありましたか?

牛嶋: 経産省にいた時は、法律や予算など、抽象的・俯瞰的な視点で関わることが多かったと感じますが、今は現場で具体的なサービス開発を行っています。住民の方々やお客様と実際に接する機会も多く、直接の声を聞くことで改善すべき点がたくさん見えてきます。そうした方々からいただいた課題を解決していくことで、初めてサービスやビジネスが生まれるんだという視点は、官僚時代にはあまり見えていなかったことかもしれません。

例えば先程お話した横須賀でのサービス提供時、配送地域内にご高齢の方が多くお住まいだったこともあり、重たいものやかさばるものを配送すると、とても喜んでいただけました。また、人に運んでもらうのは申し訳ないので配送サービスの利用を躊躇してしまうという方もいらっしゃったのですが、「ロボットだと気軽に配送を頼める」という新しいご意見を伺うこともできました。

逆に経産省にいた頃の経験を活用できている場面もあります。経産省時代は、先程もお話した通り、民間の産業振興に向けて、どのような規制緩和ができるかを考え、他の省庁と交渉をしていました。そのため、「ただ規制をなくしてほしい」と言うのではなく、「なぜ、この規制が作られたのか」という背景事情なども踏まえて規制緩和に向けた働きかけをすることができます。

――牛嶋さんから見て、ロボット配送に取り組む上での楽天の強みはどのようなところにあると思いますか?

牛嶋: 経産省にいた頃から感じていましたが、楽天はとにかくスピードが速いと思います。ドローンや自動配送ロボットを活用したサービス開発を始めるのも早かったですが、実際にそれらを活用したサービスを形にするのも早かったですね。PDCAを回すのが早く、とにかく挑戦して、やってみることで得られたフィードバックを踏まえて改善するというように、次々とチャレンジしていく文化があると思います。規制緩和を訴えかける際に重要となるのは、実証実験や限定的であってもサービス提供をいち早く行う存在です。経産省にいた当時も、そのような企業が「ここまでやっているから規制を緩和しよう」と関連省庁に働きかけていました。

また、無人配送サービスを早期に実現することはもちろん、個人的には、たくさんのロボットが様々な種類のサービスを提供することで社会を便利にしていきたいと思っています。その際に、70以上のサービスを提供している楽天だからこその強みがあると思います。実際に横須賀で提供したサービスでも「楽天ペイ(オンライン決済)」を導入しました。今後サービスの幅を拡げようとした際にも、ECや金融、通信、広告など、多くの領域で事業を展開しているからこその幅広いサポートが得られ、新しい事業がスムーズに進められるというメリットがありますね。

自動配送ロボットを地域のインフラへ

――最後に牛嶋さんの目指す未来を教えてください。

牛嶋: まずは自動配送ロボットを活用した無人配送サービスを早期に実現することで、宅配需要の拡大に対応するとともに、地方における「買い物難民」の増加という社会問題の解決にも役立てていければと考えています。

その先では、スーパーから自宅に商品を配送するというサービスだけではなく、自動配送ロボットが地域のインフラとなって、ドラッグストアや書店、飲食店などからの配送、クリーニングの受け渡し、ちょっとしたモノの貸し借りなどができるようになるといいですよね。その他にも自動配送ロボットの側面がデジタルサイネージになって広告を掲示したり、地域の警備にも使用したりなど、ロボットマニアの私としてはたくさんの可能性を感じています(笑)。

まだまだ夢のような話も多いと感じられるかもしれませんが、これらをいち早く皆さんの目に見える形で実現していきたいと思っています。案外そう遠くない未来かもしれません!

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