失敗を恐れず行動し、世界をエンパワーメントし続ける。そんなハッカーセントリックな価値観を芽吹かせていきたい。

吉岡 弘隆

楽天株式会社 技術理事

日本DEC研究開発センターで日本語COBOL、日本語Rdb等の開発後、1994年に米国オラクルでOracle8を開発。2000年にミラクル・リナックスの創業に取締役CTOとして参加。セキュリティ&プログラミングキャンプ実行委員、U-20プログラミングコンテスト審査委員などを歴任。カーネル読書会の主宰者。09年より楽天の中長期的な課題について、技術的な観点から経営陣に答申する理事会をとりまとめる。

ハッカーマインドが切り開いてきたインターネット文化。

僕のハッカーマインドとの出会いは、大学院を出てDEC(かつて存在した米国のコンピュータメーカー)に入社した時に遡ります。配属されたのが本社のエンジニアリング部門に直結する研究開発センターということもあり、本国のエンジニアと交流を持つ機会がふんだんにありました。ハッカーの聖地と言われたMITの出身者もいました。DECにも、ハッカーマインドを持ち込んでいたのです。

フラットな立場で自由に議論し合い、好き勝手にツールをつくったりする。そんな彼らの価値観は、会社とは上意下達で動くものだと思っていた僕の想像を超えていました。それでも、彼らと接するうちにその行動原理が少しずつ理解できるようになりました。みんな、「世界中の多くの人々に喜んで受け入れられるものを生み出したい」と考え、ラディカルに、他人の命令に従うのではなく、お金のためでもなく、自らの意思でコンピュータの可能性を切り開いていたのです。

上司も、そうした自発的なクリエイティビティを黙認していました。頭を押さえ込むよりも、創造性を養って仕事に活かしてくれる方が、あるいはそこから自社に有益な技術やプロダクトを生んでくれた方がよっぽど良いと考えていたのでしょう。

結果的にハッカーマインドは、企業の枠を超えてITにおける様々なイノベーティブな成果を引き寄せてきました。インターネットの構成技術のほとんどがそうです。1998年にネットスケープがソースコードを公開したのは、典型的なハッカーマインドによるものと言えるでしょう。

楽天のビジネスモデルには、ハッカーが集結する求心力がある。

こうして米国でハッカーマインドに感化された僕は、世界初のWebブラウザと呼ばれたMosaicの日本語版を、VMS(DEC社製OS)に見よう見まねで移植しDEC社内で公開。この時は、かなりの人にインストールされて驚きました。その後、オープンソースの時代の幕が開くのと前後して、現在も続くLinuxの普及を目指したカーネル読書会を主催しています。いずれも原動力となったのは、世の中を少しずつでも前に進めていこう、失敗をしてもいいからそこから何かを学びとってやろうという、ハッカーマインド特有のワクワク感です。

そんな僕が楽天の技術理事を務めることにしたのは、楽天には技術で世の中をエンパワーメントしようとするビジネスモデルがあったからです。それは、ハッカーマインドそのものです。

楽天はECを運営する企業に相違ないのですが、直販モデルではなく、プラットフォーム型モデルともいうべき、楽天市場を運営しています。そこでは、広く多くの人に商品を買ってほしい店舗と、気楽に各地の様々な商品を購入したい消費者を結びつけています。それは、確実に世の中をより便利な方向に変えていきます。日本で誕生し、日本で育ったビジネスモデルですが、この便利さは普遍性の高いものですから、海外への展開も順調に進んでいます。そう、楽天市場とは、世界中の人の不便や不満といった「不」を「ありがとう」という言葉に変え、それをコツコツと積み上げていく仕組みそのものなのです。

この仕組みをつくったのもハッカーマインドを持ったエンジニアなら、もっと便利にするために先端技術に取り組んでいるのもハッカーマインドを持ったエンジニアです。でも、強い理念でこの仕組みをゼロから構想し、強力なリーダーシップで具現化を牽引してきた三木谷浩史こそ、一番のハッカーと言えるのかも知れませんね。

「許可を求めるな、謝罪せよ」が、楽天に息づくハッカーマインド。

いま、楽天にはハッカーマインドを持った数多くのエンジニアが世界中から集結しています。例えば、ノルウェー人をリーダーとする一つのチームが、オリジナルのサーチエンジンを開発しています。オープンソースを活用した開発ですから、ベンダーのサポートなどありません。彼らは自分たちで何でも解決するというDIYの精神で、腹をくくってやっています。これも、ハッカーマインドの特質の一つです。また、社内のSNSとしてYammerを取入れていますが、その場で三木谷の一つの見解に対して異を唱える社員がいたりします。これなどは、権威に対して臆さないハッカーマインドを堂々と発揮できる風土を証明しています。

「許可を求めるな、謝罪せよ」という、ハッカーマインドを鼓舞する言葉があります。何かに自発的に取り組む際、許可を取りつけることに時間と手間を掛けずとりあえずやってみる。もし上手く行かなければ、それを素直に認め謝罪し、改良すれば良い、という教えです。これこそ、楽天に息づいているハッカーマインドを示した言葉です。周囲は、「失敗を恐れず行動し、世界をエンパワーメントし続ける」という価値観を共有する仲間たちですから、上手く行かなくても謝る必要なんてないかもしれません。それどころか、次の成功に向けてきっと力を貸してくれるはずですよ。

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